第19話 おかゆ

 早速おかゆ作りに取り掛かる紺。

 調味料を探すついでか、勝手に冷蔵庫を開けては俺にダメ出しを入れてくる。


「ダメじゃないですか、こんなに食材を買って……腐らせる気ですか!」


 確かに普段自炊しないのは認めるが、そこまで言わなくても。


「いや、自分で作ろうと思ったんだが、このザマで……」

「えっ、シューチさんが自分で料理を……!? すごいです!」

「まぁ……たまにはな……ケホケホ」

「あ! 無理して起き上がらないでください! 寝ていてください!」


 そう言われて布団に押し戻された。

 やはり本調子といかないので、痰が絡んで咳き込んでしまう。


「ゲホゲホッ……すまないな……」

「いいんですよ、まぁせっかくなのでお話したいという気持ちはありますけどね♪」

「少しくらいなら平気だぞ」

「そうなんですね、でも無理はしなくてもいいですから」


 まるで天使だった。

 こんなかわいい子に看病されて幸せものだな……。

 俺はそんなことを考えながら、紺の後姿を見守った。


「じゃあ食材が勿体ないので、おかゆに卵と野菜を少々入れて……その後はチンして食べれるおかずをいくつか作り置きしましょうか♪」


 なんだか楽しげだな。

 そんな風に思ってると、テキパキと動き出す紺。

 その手際の良さは主婦顔負けである。

 本当に配信者なのかと思えるほど、相変わらず家事スキルもかなり高い。


 そんな紺を見て、俺は思わず呟いた。


「ケホッ……お前ってホントいい嫁になるよな」

「えへへ~これも花嫁修業の一環です♡」

「あぁ、お前なら良い男が見つかるだろうし存分にここで修業をしていってくれ」


 でも、どこか嫁に行っても配信を続けてくれると嬉しいな。

 なんて思っての発言だったのだが、紺の動きがピタリと止まった。


「ん……どうしたんだ?」


 すると急に動き出したかと思うと、台所へと向かい包丁を取り出した。

 あれれ、おかしいぞ。なんでそんなものを持ってこっちに来るんですかね。

 嫌な予感しかしない。


「そろそろ私も限界なので覚悟してくださいね?」


 満面の笑みを浮かべながらこちらへ来る彼女を見て、本能的に死を悟った。


「え、えっと……はい、すいません……」

「わかればいいんです♡」


 病人にも容赦のない責めで、寿命が縮まるかと思った。

 結局、何が原因だったのか分からないが、ひとまず危機を乗り越えた事だけは分かった、危なかった……。

 でも、看病しにきてくれて嬉しかったりするのは本当だ。

 なので紺の気持ちに甘えて、俺は少しだけ目を閉じることにした。


 …………


 ……


 ふと目が覚めると部屋が真っ暗になっていた。

 あれ……いつの間にか眠っていたのか?


「あ、起きたみたいですね」


 俺に気を遣って電気も消してくれていたようだ。


「ん? ……あっ、ずっといてくれたのか?」

「はい、ご飯もできていますよ」


 台所の方を見ると鍋に入ったおかゆがあった。

 さっき見たときはなかったので、わざわざ作ってくれたようだ。


「悪いな……起きるまで待っていてくれたのか」

「いえいえ、これくらいどうってことないですよ」

「ありがとう、でも少し食欲は出てきたかもしれない」

「それなら良かったです、おかゆを温めてきますね♪」


 そして間もなく、俺の元におかゆが運ばれてくる。


「はいどうぞ~♪」


 れんげを手に取り、一口食べてみる。


「うん……美味しいよ」


 正直味はよくわからなかったけど、とにかく優しい味だった。

 心まで温まるような、そんな味。


「ふふっ、よかったです♪」


 嬉しそうな笑顔を浮かべる紺を見て、思わずドキッとした。

 優しくされたからだろうか、弱っている時に見る紺の姿はいつも以上に可愛く見える。

 俺は少しの間、ボーッと見惚れてしまっていた。


「どうかしましたか?」

「あぁ、いや……なんでもない」


 不思議そうに見つめられて、慌てて目を逸らす。

 それから俺は無言のまま食事を続けた。


「……ごちそうさま」

「はーい、お粗末様でした」


 そう言い、食器を片付けに行く紺。


「食器とか洗わなくてもいいからな」

「ダメです、私がやりますから」

「……そうか」


 きっと何を言ってもやってくれるのだろう。

 それに、今の状態じゃ止めることもできない。


「洗い物が終わったらまた来ますのでゆっくり休んでくださいね」

「あぁ……はぁ、早く治さないとな」


 本当によくできた子だと思う。

 紺がいなかったら今頃、俺はどう過ごしていたのだろうか。

 まだ身体が本調子じゃないのだろう。

 だからこんな気持ちに駆られてしまうのだ。


「薬は飲みましたか?」


 いつの間にか、洗い物を済ませた紺が聞いてきた。


「まだなんだ、あの棚に常備してる薬があるから持ってきてくれないか」

「これですか?」

「あぁ……一袋出してくれ」


 そして手渡された粉薬を飲み込むと、とても苦い味が口に広がった。

 水で一気に飲み干してしまう


「大人ですね、私錠剤のお薬しか飲めないんです」

「はは、確かに紺の手料理を食べた後はいつも以上にマズく感じる」

「……っ! もう、それはどういう意味なんですか!」


 ぷんすか怒っている紺だが、その顔はとても楽しそうだ。

 そんな様子を微笑ましく見ていると、急に倦怠感が襲ってきた。


「あっ、大丈夫ですか?」

「すまない、少しだけフラついて……でももう一人で平気だ」

「そんな風には見えませんよ?」


 確かに未だに喉が焼けるように痛いし、めまいも軽くする。

 だけど、食事も採ったし十分な睡眠を取ればきっと治るだろう。

 そう思ったのだが——


「仕方ないですね、今日は泊まっていくことにしましょう!」

「そうか……じゃあ……は?」


 今なんて言った? 泊まるって聞こえた気がするが……。


「シューチさんの身に何かあったらいけないので、泊まっていきます!」


 聞き間違いではなかったようだ。

 まだ許可していないのに、紺は乗り気である。

 不法侵入並びに不法滞在か。

 今日は犯罪のオンパレードである。



 ———————————————————————————



 おかゆと聞いて、猫又おかゆのネタを入れようと思ったのですが、物語をぶっ壊すわけにはいかなかったので自分の書きたい話を優先させました。

 どうでも良いネタ失礼しました。

 また続きをお楽しみください。

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