第13話 買い物
マネージャーの掛川が同伴し、配信機材の選別を手伝って貰うことになったのだが、この通り無駄なモノまで見ている始末。
「シューチさん、これ私に似合いますかー?♪」
「似合ってる似合ってる」
「あー適当なこと言ってますね! そういうのいけないんですよ」
買う気もないのにゲーミングチェアに乗っている紺。
写真を撮ってくれという事だろうか。
だが、俺のスマホに写真を収めるのは犯罪な気がするのでやめておこう。
「だ、だったらコンちゃん、こっちのが似合うと思うよ……へへ……」
「お前は乗るな」
掛川は別の椅子を差し出し紺に座らせようとする。
まぁ、こういう椅子って基本的に高いからな。
こういう所でしか試せないという醍醐味は分かるのだが、紺はともかく、掛川は良い大人なのだから遊ぼうとしないで欲しい。
「私はこっちの方が好きなんですけど、マネージャーさんはどう思いますか?」
「わ、わたしっ!? そうね……コンちゃんなら何でも似合うけど、オレンジのやつとか、使ってみて欲しいな……うへへ……」
「あ、じゃあこれはどうでしょうっ?♪」
「んーーでも高いからなぁ……オシャレだと思うけど」
仲良いなコイツら。仕事だけの関係じゃないことも伺える。
だが、いつの間にか完全にガールズトークが始まってしまっていた。
女の買い物は基本長いからな。全部の店を回って総合的に気に入ったのを選ぶというのが常識。
電気屋でこういう買い物はやめて欲しいとは思うものの、最近のモノは種類が豊富だからな。微妙な値段の違いから色まで、様々だ。
だから、きっと長時間拘束されることが予想される。
「で、シューチさんはどっちがタイプですか?」
「え?」
と、急に話を振られた。
赤とピンクのヘッドセットを見せてきた。掛川もジーっと見ている。これ正解はあるのだろうか、間違えたらどうなるのだろうか。
妙に緊張をしてしまうが
「紺だったらこっちじゃないか……?」
配信中の紺を想像し、赤色のモノを選んでみた。
「わかりましたっ、じゃあこっちにします♪」
すると、すぐにカゴに入れてくれた。
そんな簡単にモノを決めてもいいのだろうか……いや、違う考え方をすれば俺が選んだら早く買い物が終わるのでは?
今ミキサーを掛川と選んでいる最中なので、俺は適当にチョイスしてみた。
「これ良さそうだよな」
「あーちょっとそれは買おうとは思わないですね……あはは」
苦笑する紺はまだ優しかった。
「貴方菊川さんって言いましたっけ……どうして外ヅラばかりで性能の伴ってない
だが、マネージャーからこうまで言われてしまったので、俺はずっと黙っていようと思った。
—————————————————————————————
「ふぅ、やっぱりネットよりも実店舗の方が、買い物が捗りますね♪」
電気屋で無事ミキサーやオーディオ、ついでにスピーカーなんかも買いたいとのことだったので大量の荷物になってしまった。
結局俺が荷物持ちになったのだが、役に立てて良かったとも思える。
それに案外、掛川は機械の知識があるようで頼りになった。
やはり配信の裏方をしているだけあって知識が深い。
しかし、掛川は何故か紺と距離感が近い気がするのは気のせいだろうか。
俺なんかに目もくれず、ずっと紺の事ばかり見ている。
まぁいいんだけどな。別に気にすることじゃないし、二人の関係が上手くいっているならそれに越したことはない。
「はぁ……これからまた事務所に戻らないといけない……」
掛川はため息をついて呟いた。
彼女は事務員兼マネージャーという立ち位置なので、常に仕事に追われているのだ。
今日は俺達のために時間を作ってくれたわけだが、本来はこんな事をしている暇はないらしい。
「仕事中なので悪かったな」
「いいですよ……どうせ休日出勤ですし、休みなんてないものだと思ってますし……」
「お、おう……」
「だけどコンちゃんの近くで仕事ができるのがやりがいに感じてるから……それが何よりの救いかな……へへ……」
そう言って掛川は微笑んだ。
この女は本当によく分からないヤツだな。
「じゃあ……ちゃんと寄り道せずコンちゃんを送ってくださいね、お知り合いさん」
「名前くらい覚えてくれないか?」
「そこまで言うなら分かりましたよ……菊川さん、コンちゃんのから2m離れて呼吸もしないでくださいね」
「俺を殺す気か」
しかも名前も違うし、もういいやと思って彼女の背中を見送った。
「じゃあどこか喫茶店にでも行きましょうか」
「え?」
掛川の姿が見えなくなるや否や、紺は言った。
「せっかくお出かけしたのに勿体なくありませんか?」
「それはそうだが、掛川に寄り道せずって言わなかったか」
「約束って言うのは破る為にあるんですよ♪」
悪女かコイツは。
別に嫌でもないからいいのだが、少しくらい罪悪感とか持って欲しいところだ。
「今日一日荷物持ちだけなんて悪いですよ、だからせっかくなのでお礼に一緒に美味しいものでも食べましょう♡」
良い奴だな……と思うも、紺は爛々と目を輝かせて浮かれている。
実は自分が食べたいだけなんじゃないか?
でもまぁ……せっかくだしな。
「わかった、店はもう決まってるのか?」
「えぇ、実はリスナーさんからおすすめされたお店がありまして、そこに行ってみたいですっ♪」
「準備がいいな」
「はいっ♪ でもがっつり系というかは、スイーツを楽しむお店なんですけど、大丈夫ですか?」
確かにこの時間だとランチって感じがするが、特にお腹は空いてない。
「朝食しっかり食べたしな、デザートくらいだとありがたいかも」
「よかった、じゃあ行きましょうっ♡」
こうして俺たちはその店へと向かって行く。
まだまだ紺との一日は続きそうであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます