第11話 電気屋で

 今日は良い天気だ。

 暑いというほどでもないが、青空が広がり日差しが眩しい。

 しばらく歩いて目的の場所に着くと、そこにも多くの人で溢れかえっていた。


「相変わらず多いな……」

「で、ですね~」


 休日であることに加え、市の中心部であるため仕方ないことだが、やはりすごい人数である。

 まるで人気のイベントが開催されているのかと思うほど。

 紺もその様子に圧倒されているようだ。


「まぁはぐれないようについてきてくれ」

「わかりましたっ!」


 そして、俺たちは配信機材を探すべく、電気街を回り始める。

 といっても目的のものは決まっているため、そう時間もかからず見つかるだろう。

 それからしばらく歩き続け、デカイ電気屋にやってきた。


「よし、ここならそれっぽいのが見つかるだろ」

「なんか凄いお店ですねぇ……」


 紺が感心したように呟く。

 確かにデカイし、色んなものが売ってあるな。

 ここに来れば大抵のものが揃うだろう。


「じゃあ早速見て回るぞ」

「はい! 頑張ります!」


 気合い十分な紺を連れ、俺は店内に入る。


「へぇ~凄いですね」


 物珍しそうにキョロキョロしながら歩く紺の姿が微笑ましい。

 俺も初めての時はこんな感じだったな……。

 なんて思いながら、機材を探してまわる。


「このマイクどうですか?」


 お、早速見つけたか。

 紺があるものを手に取り尋ねてくる。

 それはマイクのような形をしたものだ。

 うん、見た目からしてマイクのようにしか見えない。


「すごいです、スイッチを入れたら震えるんですね!」


 これが最新式のマイクか、素晴らしいな……


「んなワケあるか! お前何持ってんだよ!」

「えっ……」


 ペシッとつい頭を叩いてしまったが、これは仕方ない。

 何故なら紺は、電動マッサージ機を手にしていたからだ。


「えぇ……でも形が同じじゃないですか……」

「どんだけ機械音痴なんだよ、ほらいくぞ!」


 周囲に変な誤解を生みかねないので、若干キレながら紺の手を引いた。

 そして、機材のある一角を目指す。

 とりあえずそれっぽい所についたものの、目的の物は見つからない。


「えっと……なさそうですね……あっ!」


 紺がまた何かを見つけたようで、そちらに向かって行く。

 すると手に取ったのはコントローラー。


「最新のゲームがここで試せるようですね♪」

「何をしにきたんだ」


 だが、紺はそのゲームに興味津々。


「だったら俺が探してきてやろうか?」

「いいんですか、お願いします!」


 遠慮なしに俺にお願いしてきた。

 まぁ初めてくる場所だしな、色々と楽しませてやろう。

 そう思って探し始めるのだが、広くてどこにあるのか分からない。


「見つからねえ……うーむ、どうしよう」


 確か紺が探しているのはマイクとミキサー、キャプチャーボート……だっけ?

 マイクなら分かるが後半部分は見た事がないのでよく分からない。

 店内の看板も特になさそうだ。

 だったらと思い、俺は近くにいた人に聞いてみた。


「あのー、すいません」


 そいつはワイシャツ姿の女だった。

 黒髪のロングで眼鏡をかけていて、いかにも働く女という感じ。

 だが、どういうことかぶつぶつと呪詛を吐いているではないか。


「あぁどうして貴重な休日をこんな雑用みたいなことで浪費してるのわたしは大体壊したのは貴女なんだから自分で買いに行けばいいでしょうにどうして私をコキ使うのねぇ私のことが嫌いなのどこが嫌いなの……ん?」


 ちょっと怖かった。

 店員にしては働く態度が悪すぎる。


「あ、ええと……店員さんじゃないですよね」


 声を掛けてしまったからには、このまま放置するわけにもいかない。

 仕方なく要件を伝えることにした。


「商品を聞こうと思ったんですが、てっきり店員と間違えて」

「違うのだけど……もしかしてナンパですか? あぁ違いますよね私なんかに声を掛ける男なんて皆宗教かアムウ〇イですもんね。ねずみ講は間に合ってますので——」

「待て待て待て、俺をなんだと思ってるんだ」


 誤解をされたくない一心で説得した。


「なんなんですか、店員じゃないと分かった瞬間に手のひらを返して」

「さっきみたいな言い方をされると心臓に悪いんだよ」

「はぁもういいです、何か困ってるようなので話くらいは聞いてあげます、はいどうぞ」


 そんな言い方をされたら言いたい事も言えなくなるが、まぁせっかくだし聞いてみよう。


「配信機材を探しているんだが、マイクとミキサーがどこにあるか分かるか?」

「男の人なのにそんなことも分からないの珍しいですね、終わってますね。いいですよ私が案内してあげますから……」

「よく一言余計って言われないか?」

「はいはい、ではこちらへどうぞお客様」


 そう言って彼女は歩き出した。

 なんか腹立つなぁ。

 だが、見ず知らずの相手に案内してくれるのだから良い奴なのかもしれない。

 そのわずかな可能性に賭けて俺は彼女に着いていった。

 それからしばらく歩いた先にようやくそれらしきものが見つかる。


「この辺りにお目当ての物がありますよ」

「おぉ、本当だな」


 連れてきてくれた場所に、紺が探していそうな機材が一式置いてある。

 そこでチラチラと見ていると、女は尋ねてきた。


「なんだか機材について全然分かっていなさそうですね」

「そりゃあ知り合いに買い物に付き合ってきてるだけだからな」

「はぁ……それでパシリに使われているわけですか、貴女も難儀ですね」

「アンタと一緒にするな」


 イチイチ嫌味な事を言う奴だな。

 と思っていたら、また俯き始めた。


「あぁそうですよね買い物にすら付き合ってもらえない私こそがパシリですから貴方なんかと一緒にしちゃいけないですよねごめんなさい……死のうかな……」

「おい早まるな、そこまで言ってないだろ」


 クセが強いなコイツは。

 変なことに巻き込まれないうちにさっさと退散すべきか……と思ったら、紺の声が聞こえてきた。


「シューチさーん、見つかりましたかー? ……えっ?」


 紺の眼の色が変わった。

 その女は誰ですか、みたいな茶番が始まるのだろう。

 めんどくさいなぁと思っていたら全然違う方向から驚愕の声がやってきた。


「あ“ぁぁぁぁっ……こ、コンちゃん~~~……っ!!」

「ちょ、ちょっと、掛川さんっ!?」


 紺の知り合いだろうか。

 女はいきなり紺に抱きつきむせび泣いた。


「ねぇぎいてよぉおぉぉ~~……またまねーじゃーがどんでぇ、じごとがふえでぇえぇぇぇ……」

「お、おちついて、おちついて……」


 よく分からないが、逃げるに逃げられない状況になってしまった。

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