第3話 三人で買い物

 まぁ、酒の席は多い方が良いだろうという事で紺も参加となった。

 とりあえず、最近頻繁に送ってくる連絡について説教しなくてはならない。

 酒の席ならうってつけだと思い店に向かうのだが——


「すいません、今満席で——」

「そうですか」


 金曜の夜という事もあってか、どこの店も満席だ。


「どうしましょう、今回はやめておきます?」

「せっかくの金曜の夜だよ? ハメ外さないでどうするの」

「外されても困るんですけどね……」


 もう少し歩けば他の店があるが、あまり女性陣を歩かせるのもな……


「じゃあこうしよう」


 名案だと言わんばかりに、先輩が人差し指を立てて言う。


「紺ちゃんの家に行こう?」

「え、私の家ですか!?」


 聞き返すと同時に手をブンブンと横に振った。


「だ、ダメですダメです絶対に!」

「なんで?」


 そりゃ当然だ。

 配信機材で身バレしたら困るだろうし、何よりプライバシー問題がある。

 でも、前に入ったからいいじゃないかと先輩がゴリ押ししようとするので、助けに入った。


「まぁ入れたくない日だってあるんですよ」

「分かる、女の子の日ってあるもんね」

「そういうことです!」


 俺は断言した。

 そのやり取りに「ち、違いますっ!」と珍しく紺が恥ずかしそうにツッコんでいたので、ちょっと可愛かった。


「前回は入れさせてあげましたけど、今日は色々と散らかっているので絶対にダメなんですっ」

「そっか、女の子の家とやらを漁ってみたいなって思ってたのに」


 フッと笑う。

 紺の為にも絶対に止めてあげた方が良いと思った。


「まぁ、紺が困ってるんでやめてあげましょう」


 そして、何か思いついたのか紺は俺の方を向いて言ってきた。


「だったらシューチさんの家に行きたいです」

「ダメだ」

「なんでですか!」

「キレるほどのことじゃないんだろ」


 即答してやった。

 だってお前何するか分からないし。

 チラッと横目で見ると、先輩は少し考え込むように顎に手を当てていた。


「菊川君の家良さそうだね、ボロくて狭くて、居酒屋の雰囲気にぴったりだよ」

「酷い言われようですね」


 ていうか先輩、俺の家に来たことないだろ。


「俺の家なんかに来たら二人とも帰りが遅くなりますよ」

「いいよ、私が紺ちゃんを送って行くからさ。ジュルッ」

「あの、突然キャラがおかしくなるのやめてもらっていいですか」


 だって女が男の家に上がり込むなんてダメだ。

 いや、それよりも紺の帰る時間が遅くなるといけない。

 だったらと思い、先輩に尋ねてみた。


「だったら……先輩の家はどうですか、紺の家も近いし」

「あぁ、いいけど……」


 少しだけ歯切れの悪い返事だった。


「焼津さん何か心配事でもあるんですか?」


 紺は心配そうに尋ねるが、先輩は視線を逸らし何も答えない。

 ただ、どこか浮かない表情をしていた。


「あーまぁ、何となく分かりました」


 以前、紺の家に侵入する為に強引に先輩の家に入った事がある。

 その際に見てしまったモノが原因だろうが


「まぁ……察してやれ紺」

「?」

「先輩も忙しい人なんだよ」


 首を傾げる紺だったが、後々分かるので今は言わなくても良いだろうと思った。



 —————————————————————————————



 で、スーパーで総菜を買おうと考えていた俺たちだったが、ありがたいことに、紺がツマミを作ってくれると申し出てくれた。

 なのでお言葉に甘えて作ってもらうことになるが、材料が必要だ。

 ということで今、俺たちは買い物に来ていた。


「えっと、お野菜とお肉を買って……」


 力仕事は俺の役割なので、カゴ持ちを引き受けた。

 商品を見ながら、カゴに食材を入れていく紺を眺めながら思う。

 やっぱり家庭的な子だよな……。


 そんな事を考えていると、先輩のジト目が突き刺さる。


「ねぇ、今変なこと考えてなかった?」

「いえ、別に」

「ふぅん……」

「ほ、本当に何でも無いですよ」


 何故バレたのだろうか、勘が良いにも程がある。

 だが、そんな勘繰りも束の間。俺の腕が重力に引っ張られる感覚に陥った。


「ん?」


 先輩が胸を押し付けるような形で腕を絡めているのかと思った。

 そんなわけないよなーハハッと、俺は買い物カゴを見た。


「あの先輩」

「何?」


 とぼけるつもりがないであろう態度で言ってくる。


「重いんですけど……」

「あ、ごめんつい」


 と言いつつ次々に酒の缶を入れてくる。


「えっと、なんでこんなに入れてくるんですか?」

「いいじゃん、たまには後輩と仲良くしたいの」


 と笑顔で言う先輩に思わず頬が緩む——ワケないだろ!


「いやいや多すぎでしょ、俺こんなに飲めませんよ!?」

「何言ってるの、私が飲むんだよ」


 カゴの中のお酒はゆうに10本を超えている。

 これならケースで買った方が早いんじゃないか、と思えるほど。


「いつもどれだけ飲んでるんですか……」

「飲む日だと3本は必ず飲むかも」

「いやいや……ていうかス〇ゼロはやめておきましょうよ」


 アルコール度数の強いお酒がわりとあるので心配してしまう。


「キミはストゼロをストローで飲むような女の子はキライ?」

「どういう子ですか」

「いわゆる地雷ってやつかな?」


 よく分からないが、まぁこれだけ飲んでいるなら中身は地雷だろうな。

 俺の言葉に反応せず、カゴはドンドンと重さを増していく。

 そして、一方の紺はというと——


「お前もちょっとは自重しないか?」

「え?」


 紺はカゴの中にどんどん食材を入れていく。

 まるで何かに取り憑かれたかのように。


「もうちょい抑えてくれないと俺の腕が折れるぞ」

「大丈夫です、その時は介抱してあげますから♪」

「その時があると困るんだよ」


 そう言いつつも紺は止める気配がない。


「う~ん……これだけ安いと買いだめしないといけないですね……」


 ブツブツと独り言を言いながらカゴに入れていく。

 買い物をしている時の紺はとても楽しそうだ。

 まぁそれを見て楽しむのもいいんだけど……。


「おい、あんまり入れすぎると帰るとき大変だからな?」

「だいじょぶです、私結構力ありますからっ♪」


 そう言いながら、カゴを持つ俺の手を握ってきた。

 一緒に荷物を持ってくれるという事なのだろうが、恥ずかしい。

 幸いにも、周りには人が少ないので今すぐ離してほしいが


「……持たなくても大丈夫だぞ」


 俺は控え目に言ってしまうと、紺は照れくさそうに笑う。


「いえいえ、骨が折れちゃったら困りますから」


 その顔を見ると何故か俺まで恥ずかしくなってきた。

 ……この状況どうしたらいいだろう。

 と考えていたら、後ろから何か硬いものに激突された。


「ぐえ」


 後方確認すると、そこにはカートを持った先輩の姿があった。

 おまけに少々イラッとした表情付きの。


「重いよね、持ってきてあげたよ」

「あ、ありがとうございます……」


 後ろから激突されたのは高校の時ぶりくらいか。

 男子のノリでよくやるんだよな。

 でも明らかに今のは八つ当たりのような乱暴さを感じられた。


「あの、怒ってます?」

「なんで?」

「あ、いやなんでもないです……」


 愚問だったかもしれない。

 ていうか、いつも澄ました顔でいるから何を考えているのか分からないんだよな。

 まぁ助かったからいいけど、相変わらず紺は頬を膨らませていた。

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