第39話 ギリギリセーフ

『流星の如く現れた貧困系Vtuber! コンちゃんは今日も~~??』

「——かわいい~~~ッッ!!」


 定番の挨拶により、絹川コンの配信が開始する。


『皆おはよう~~! ごめんね……遅くなっちゃってー……!』


 まず初めに、コンちゃんは謝罪から入った。


「おそよう」「こんばんわ」

「大丈夫だよ、よくあることだしw」

「↑お前他のVに浮気してるな?」

「またゲームしてたんでしょwww」

「こらー、夜更かししちゃダメでしょー!」

「それにしてもこの配信時間……まさか!?」


 そのコメントを読み上げて、普段通りの明るい態度を振舞った。


『ふっふっふ~、そうです。そのまさかですよ皆さん』


「おおおお!!」

「きたああああああ!!!」

「まさかコラボ配信ですか!?」



 ———————————————————————————



 イズミとのバトンタッチのおかげで、皆が温かく迎えてくれた。

 少々遅れた理由に関する疑問もあったが、コンちゃんが何とか質問を捌き、事なきを得る。


 コンちゃんの良かった所といえば、寝坊してしまった事を潔く認めたことである。

 それが真摯な対応とみなされ、視聴者の好感度を上げるのだ。


 また、同時に機材トラブルもあった。

 その件を話すと、機材トラブル説が濃厚という風に視聴者たちが書き込んでいく。

 だってコンちゃんは視聴者想いだから——と、皆が言った。


「ふぅ……もう大丈夫だな」


 もうコメント欄の皆の反応を見る限り、特に問題はなさそうだ。

 俺から見ても、とても民度の高い配信に見える。

 そして紺の配信が始まった後、イズミに電話をかけた。


『遅い、一体何をしていたんだ?』


 第一声でこれである。

 電話越しの声からも不機嫌さが伺えた。


「悪かった、家の鍵が掛かっていたのもあったが機材トラブルもあってな」

『ふーん、なんとかなったの?』

「おかげさまでな」

『そっか……まぁ大事に至らなくてよかったよ』


 少しだけ声色が和らいだ気がした。


『ていうか機材トラブルって何があったの』


 予定より時間を食ったせいだろう、彼女は尋ねてきた。


「あぁ……マイクが壊れていてヤバかった」

『え、どうやったの? まさか買いに行ってたんじゃ』

「無理に決まってんだろ。お前でも流石にネタ無しで3時間もトーク繋げないだろ」

『ふん……アンタに心配されるなんてね』


 余計な気遣いだったということだろうか。

 イズミは悪態をつくが、その声は若干嬉しそうでもあった。


「まぁその疑問に答えるなら、スマホをPCに繋いでマイク代わりにしたんだよ」


 俺もWeb会議でマイクが壊れた事があった。

 その経験を活かし、ネットに落ちているアプリをインストールしたのだ。

 それが配信で使えるかどうかは分からなかったが、結果その場しのぎにはなったようで安心している。


『なるほどね~アンタやるじゃない!』

「でもイズミも助かったよ、本当にありがとう」

『お礼を言うのはこっちだし、事務所的にも助かったわ』


 いつもは全然褒めてくれないイズミがべた褒めである。

 ちょっとむずがゆい気持ちになってしまう。

 すると、彼女はこんなことまで言い出した。


『——アンタ、紺のマネージャーになってあげたら?』

「え?」


 俺はキョトンとしてしまった。


『だってやってる事まさにそれじゃん』


 常に張り付いてコンちゃんを見守っていて、今日みたいにサポートしてトラブルを解決する。

 確かに傍から見れば、マネージャー以外の何でも無いかもしれない。


「何言ってんだよ、俺には愛すべきドス黒い会社というものがあってだな」

『あはは、真っ黒なのはこっちも一緒だよ。もしマネージャーできるって言ったらアンタはどうする?』

「いや、俺はそんなつもりじゃ……」

『ふーん……違うんだ?』


 含みのある言い方だったので、否定した。


「ただ俺は——アイツが楽しんでいる声を聞きたいだけだ」


 そもそも配信者と信頼関係がないと成り立たない仕事だ。

 いくら紺と接点が多いとはいえ、そこまで出来るはずもない。

 だが、その答えには納得がいかないようで


『へーえ、それは分かったけどさ……もうちょっと素直になった方がいいと思うよ』

「え?」


 聞き返すと『何でもない』と言われ、こう告げられてしまう。


『まぁ、ウチの事務所はマネと演者の恋愛は禁止だからな、そうなればアタシとコンちゃんでワンチャンがあるかもだし!』

「まだ諦めてなかったのかよ」

『そうだよ! てか眠いし寝るねー、んじゃ、ばいばーい』


 そう言い残し通話は終了した。


 まぁ……イズミは確かに生意気キャラではあるが、いざという時は頼りになる奴だ。

 あの時連絡先を交換しておいてよかったと思うばかり。


「あ、あのシューチさん……」


 ガラリと扉が開いたので視線を向ける。

 そこには無事、配信を終えた紺がやってきたのだ。

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