第37話 綱渡り
【緊急】絹川コンの寝起きを見守るRTA実況【御殿場イズミ】
待機画面など一切なく、それは唐突に始まった。
『はいやってまいりました……皆さん、とうとうこの時が……』
「なんだなんだ……?」
「イズミちゃんがこんな時間から配信なんて」
「不穏な空気が漂っている……」
コンの配信画面や何らかの通知によって、イズミの配信に数多くの視聴者が集まってくる。コメント欄には疑問の声を持つ者も多い。
その疑問に答えるべく、彼女は告げた。
『お前ら! 異例の事態だ! 私の相方、絹川コンが寝坊した!
彼女は何時に起きてくるのか……タイムリミットは12時とさせてもらう!
私も早く寝たいからな!』
「朝起きてて偉い」
「俺だったら寝てるわ」
「流石はイズミちゃん!」
『うるさい寝るな! 推しならずっとコンちゃんが起きるまで待て!』
「横暴すぎてワロタ」
「これは一体どういうことなんだろうね……」
「さあ? まあ、なんかあったんじゃない?」
「まさか事故とか!?」「それはないだろー」
「でも、コンちゃんならありえるかも……」
『はい、ということで、まず私の自己紹介からさせてもらう——』
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俺はスマホを見て一安心した。
イズミが俺の言う事を聞いてくれたからだ。
——そう、俺は彼女に『遅刻配信』というものをお願いしたのだ。
Vtuberには遅刻・寝坊をする人が結構多く、それが原因で登録者が離れていく現象が多く発生してしまう。
今、コンちゃんの身にはそれは起きようとしていた。
火の付いたネット民を抑え込むのは人手も、力も足りない。
だったらと、知名度が高くそれを丸め込める人物が必要になる。
それが、御殿場イズミという人物であった。
「よし、俺の狙い通りだ……」
遅刻が悪という習慣。
それをネタにして視聴者側に大盛り上がりして貰えばいい。
俺は昔のオタクコンテンツから学んだことがある。
『登場回数・発言の少ないキャラは妄想が捗る』
エロゲでいうならば、攻略対象じゃない萌えキャラだ。
今、コンちゃんは爆睡してその対象となっている。
だからこそ『事故ったか?』『配信トラブルか?』と視聴者側の想像が駆り立てられてるのだ。
こうして俺の狙い通り、多くのファンが見守りに来るという事態になった。
この様子だと、数時間は持ちこたえられるだろう。
そして、この危機的状況を乗り越えられるかどうかは、彼女のトークスキル次第であった。
「頼むぞ……イズミ……」
俺は祈った。どうか上手くいって欲しいと。
「さて……俺には俺でやらなくちゃいけない事がある」
一時間は掛かってしまっただろうか。
俺は紺のマンションの前に着く前に、スマホを手に取る。
そして、俺は掛けたくない人物に電話を掛けた。
「……出て欲しくないが、出てくれ」
すると、ガチャという音とともに澄んだ声が聞こえてきた。
『おはよう菊川君、どうしたの?』
「おはようございます先輩……!」
焼津先輩が電話に出てくれた。
休日に会社の上司に電話をかけるなんて、気が引ける行為だが仕方がない。
「実は……相談したいことがありまして……」
『どうしたの?』
非常に言いづらい。
これを言えば、紺との関係を詮索されてしまう。
危ない橋を渡ることは承知だが、俺は言ってしまった。
「紺を起こさなきゃいけないのでマンションのエントランスを開けてもらっていいですか」
『紺ちゃんを?』
同時に、先輩の部屋のインターホンを鳴らす。
しばらくの間無言だったが「いいよ」という声とともにドアが開いた。
俺はすぐさま紺の部屋の前に辿り着く。
「着いた……今から起こしてやるからな……なっ!?」
ガチャ、ガチャ。
ドアを捻っても開かない。鍵が閉まっているのだ。
「くそ! あいつこんな時に鍵締めやがって!」
開かない扉を何度も捻ってしまう。
すると、横から住民に声を掛けられてしまった。
「なにやってんの?」
「はっ……! すみません! 別に怪しいモノでは……あっ」
それは部屋着姿の焼津先輩だった。
「菊川君、怪しくないは無理があると思うよ」
「スイマセン、これには訳があって……!」
はぁ、とため息をつかれてしまう。
「電話口ですごく焦ってたからどうしたのかと思って出てきちゃった」
「実は紺が寝坊をして、それがマズイ寝坊で、俺が起こしてやらないとと思って……」
「それではるばるここまで?」
「あ、はいそうです……」
恥ずかしい。年下の女の子相手に必死になっている姿は世間体が悪すぎて。
だけど、恥を忍んで電話をかけた。
イズミと先輩にも。
だったらもう恥を気にしている場合ではない。
「先輩! ベランダ入らせて貰っていいですか……!」
「え、なに突然」
「いいからっ!!」
今日、初めて上司に逆らったかもしれない。
すぐさま先輩のベランダに入らせてもらい、俺は確認した。
「これなら……いけるッ!」
ベランダを伝って紺の部屋に侵入出来ると確信した。
非常壁を突き破るわけにはいかないしな。
「菊川君、何をしてるの」
当然先輩には止められる。
だけど、俺は言った。
「すいません……でも、譲れないモノがあるですよ」
上から「あ、コイツ耐えられるw」って認識された時点で負けなんだ。
答えは得た。大丈夫だよ先輩、俺もこれから頑張って行くから(アーチャー)。
オタクがグッズ購入することを“お迎え”っていうだろ。
いくら会社の上司でも、推し活を止められるワケにはいかないのだ。
何故なら——俺は豚だからッ!
「菊川君!」
お世話になっております。
バチャ豚商事 第二営業部 萌え声営業室・菊川です。
本日は『絹川コンお寝坊配信休暇』を所得しております。
頂いたメールは明日ご確認させて頂きます。
お手数おかけして申し訳ございませんが、以上よろしくお願いします。
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趣味全開で書いたツイッターのオタクみたいな地の文。
ネット小説ウケ悪そうだからやめておこうと思ったけど手癖の悪さで書きました。
読みづらかったらスイマセン。
後、これは白上フブキの伝説の寝坊配信がネタになっています(ホロライブ布教)。
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