第33話 パスタ

 そんなこんなで料理が運ばれてきた。

 6畳の部屋に置かれたテーブルにお皿が置かれる。

 今回はミートソースパスタ。

 だが、やはり紺はパスタだけでは済まさない。

 サラダも添えられていてキレイに彩られていた。


「美味しそうだなぁ……」

「イズミちゃんも遠慮せずに食べていってね♪」

「うんっ! じゃあ……」

「「いただきます」」


 一口で分かる手料理の美味しさ。

 俺はいくつになっても冷凍のパスタは美味しいと思っていた。

 だが、この丁度良い麺の瑞々みずみずしさやコシには敵わないのだ。


「言っただろう、紺ちゃんの料理は美味しいと!」

「別に聞かなくても知ってるんだよ」

「なんだと……!?」


 行儀は悪いが食いながらイズミと言い争う。

 それよりも先に、紺にお礼を言いたかった。


「今日も美味しくて助かる」

「嬉しいです♪」


 感謝するだけで柔らかい笑みを見せてくれるだなんて。

 俺はこれから、冷凍パスタが食べられなくなるんじゃないか。

 そんな不安を覚えるほどに美味しかった。


「それでどうしてこんな男と付き合ってるんだ」

「ゲフッ」


 突然イズミが口にしたことでむせてしまった。

 そう勘違いされていたらしい。


「付き合ってないが」

「そうですよ、まだ付き合ってませんから」

「可能性を残していくな、可能性を」


 俺は正直に答えたつもりだが、イズミまだ文句があるようだった。


「じゃあなんでこんな冴えない男と絡んでるの」


 本音でずけずけと聞いてくるので、人によっては威圧感を感じるかもしれない。

 だが、裏がない。

 これがイズミの良さかもしれない。


「恩返しをする為です」

「恩返しぃ?」


 紺の言葉に理解できず、イズミは嫌みったらしく聞き返す。


「そうです、イズミちゃんにも話したじゃないですか……私にずっと贈り物をしてくれる変なファンがいるって」

「俺は変なファンだったのか」


 まぁ、スパチャ機能がある昨今、時代にそぐわない事をしていたしな。

 確かに事務所側からしたら変な奴だったかもしれない。


「お前が変なファンだったとは……まさか紺は脅されて食事を作らされているのか!?」


 ほら言わんこっちゃない。

 変なファンとか言うから。


「やっぱりお前っ、料理だけじゃなく紺にあんなことや、こんなことを……っ!!」

「もうこの展開読んでたわ」


 俺は無心でイズミの怒りを受けていた。

 

「いや、私が勝手にしていることなので……!」


 ようやく紺がフォローしてくれて、イズミの怒りが収まる。

 とにかく、俺も勝手に贈り物をしていただけだと主張しておいた。このままずっと恩返しをされるわけにもいかないからな、保険である。

 すると、どういうことがこんな事を言い始めた。


「まぁこの件にしても、最近の紺ちゃんは変だよな〜」

「元々変な奴じゃないか?」

「私の紺ちゃんを侮辱するなシメるぞ」

「どこが変なんだ?」


 俺に料理を振舞ってくれる時点で変な奴だなとは思ってる。

 話半分に聞いておこうと思い尋ねると、イズミは言った。


「突然配信を始めたり、視聴者の声をたくさん拾うようになったりしてさ」

「いいことじゃないのか?」

「もちろんね。だけど紺って最近嫌なことあったばかりじゃん」


 すると紺は苦笑する。


「あぁ〜3D配信企画やイベントがなくなったり、後……贈り物とかも」


 最後の贈り物の件で、一番声色が強かった。


「だよね〜良い事ばっかり言って落としてくるのびっくりするよね、マネージャーに恵まれてないから可哀想だと思った」


 事務所にいると色々とあるのだろう。

 だけど、配信で愚痴らないだけマシだと思った。


「まぁマネージャーも一人の人間だしな、色々とあるんじゃないか?」

「だよねえ……分かってるんだけど、ポンコツが過ぎるというか……」


 こういう話題は視聴者が好みそうだなと思う。

 配信業は何気に人気の仕事。裏側を知りたいと考える奴は多いだろう。

 なのに二人は偉いなと思った。

 配信で愚痴ると何万人という視聴者にマネージャーの事が知れ渡る。

 だから若くてもここだけの話にしている辺り、ちゃんと働いてるのだと実感した。


「分かってないのにすまないな」

「いや、愚痴に付き合ってくれて嬉しいよ」


 そこでイズミは紺に視線を向けて言うのだ。


「まぁ……それで紺ちゃんが燃え尽きたりしないか心配になったんだよね」


 すると紺は慌てて否定した。


「し、しないよ〜だって私の努力不足のところがあったんだもん、仕方ないから」


 手をブンブンと横に振る姿は可愛い。

 イズミはため息をつき言った。


「はぁ、そういう文句を言わないところだよ」


 知らない内に、俺も紺にめんどくさい気持ちを押し付けているのかもしれない。

 気を付けないといけないなと考えてしまった。



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