第20話 朝活配信

【マシュマロ返信】

 20**/06/**(月)

 ——————————————————————————

 Vtuberとして活動を始めたきっかけは?

 ——————————————————————————

【回答】

『昔から人前に出ることが好きでしたし、色んな人と関わりたかったんだよねー。

 だからまずはVtuberになってみようと思って——』



「はーあ、疲れたぁ~~」


 ぐっと背伸びをし、質問コーナーに答えていた。

 朝活と言う名の朝配信。

 そして、夜にも配信という中抜きシフトのようなめんどくさい予定を立てちゃった。

 がんばれあてぃし!


 本当は夜だけの配信だったけど、土日は同時接続数が伸びるんだよね。

 早起きは苦手だし、お昼と夜に続けて配信をすればいいんだけど、予定を空けておきたかったからだ。

 それは、シューチさんから着信のせい。


『明日の昼にアレ返しに行っていいか』


 肉じゃがを全部食べてくれたんだろうな。

 だめだけど、別に食べずに腐らせちゃっててもいい。

 だってシューチさんが来てくれるから。

 私の手料理を食べに来てくれる、それだけで満足なのだ。


『はい! よろしくお願いします!』

『おう。じゃあまた明日』


 と、昨日のやり取りを見てはニヤけるあてぃし。

 気持ちの悪い顔をしているに違いない。


 はぁ……シューチさんが待ち遠しい。

 私の恩人で、ずっと会いたかった人。


 王子様なんてイメージは持っていなかったし、見た目に過度な期待はしてなかった。

 けれど、意外と年上の魅力を感じる人だった。


 なんというか……落ち着いてる?

 まぁちょっとひねくれた性格をしてるから、誉め言葉にならないかもだけど。


「てか別に太ってなかったし……全然豚じゃないじゃん、くすっ」


 でも、見た目うんぬんよりも。

 これだけは間違いなく言えることがある。


「やっぱり優しい人だよなぁ……」


 野菜や手紙でエールを送ってくれるだけじゃない。

 会ってからもずっと私のことを心配してくれている。

 だからこそ、想像してしまった。


「私がVのお仕事してなかったら、どう接してたんだろう……」


 ……だけどそれはない。

 だって、シューチさんと会えなかった世界線の話だもの。

 そんな所に私はいないもん。


「でも、どうしよう……」


 どうしよう……と、心の中でも呟く。

 私は迷惑になっていないかな。


 恩返しといっては押しかけて。スマホを奪って。

 シューチさんに負担をかけてはいないかな。


「私がシューチさんにしてあげられること、何かあるのかな……」


 私が出来ることと言えば、料理を作ることくらいしかないけど……。

 でも、きっとそれを望んでくれているはず。

 ううん、絶対にそうだよね。

 だから……不安が胸を埋め尽くしそうになる前に


「こ、紺ちゃんは今日も可愛い~~……っ!」


 自信に満ちた自分のキャラになりきるように、声に出して意識した。

 そう思いながらベッドに入り、スマホを手にする。


「あれ?」

『——もう着く』


 そんな通知があると思っていたら、すぐにインターホンが鳴った。


「は、はうっ!? はやいなぁ……っ」


 着信に気付いていればすぐに配信を終わらせていたのに。

 まぁでも、シューチさんと会えるんだから、それだけでご褒美だよね。


「はいはーい♪」


 そして、玄関のインターホンが鳴ったので、ドアを開けると——


「やぁやぁ、キミが菊川君のお友達かな——ん?」

「——へ?」


 よく知らない女の人の隣には、気まずそうな顔をしたシューチさんが突っ立っているのだった。




———————————————————————————



 お気付きの方もいらっしゃると思いますが、紺の一人称ふざけてます。

 すいません。手癖が悪くてつい。

 元ネタは『湊あくあ あてぃし』か『あてぃしガニ』で調べてみてください。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る