第16話 肉じゃが

 肉じゃがが出来たので食べる事にした。


「すごく美味しいな」


 俺の感想を聞いた後、紺はモジモジしながら「良かったです」と言った。

 その仕草は可愛いのだが、俺のスマホを奪った事を考えると少し複雑な気持ちになる。

 なんで性格が破綻はたんしてて料理の腕がいいのか謎だ。

 いや、逆に性格は破綻しているからか?

 その答えは誰も知る由もない。


「でも……本当に料理が上手なんだな、結構練習したんだろ」

「これはですね、シューチさんに食料をたくさん送ってもらったので料理する機会が多かったんですよ」


 なるほどな。

 俺の贈り物は今に活かされているということみたいだ。

 変な邪推じゃすいをすべきではなかった。


「今では調理を邪魔されてても美味しく作れるくらいには、ね?♡」

「それは嫌味か?」


 さっきちょっと会話したくらいじゃないか。


 はぁ……なんか紺の家にお邪魔してから調子が狂うな。

 やっぱり自分の家じゃないからだろうか。

 だから配信も邪魔して申し訳ない気分になってしまったり……と。


「そういえば俺が部屋に入った時、視聴者の反応は大丈夫だったのか」


 肉じゃがを口に運びながら聞いてみた。


「確かに皆びっくりしてました。私がデカい声で叫んだら『助かる』ってコメントが湧いちゃいました」

「それは分かる」

「わ、分からなくていいですよっ!」


 豚だから分かる。

 くしゃみなんかもわりと『助かる』部類だ。

 ちなみにその『助かる』とは、癒された、可愛いという意味がある。


「結構ホラーゲームとか苦手な部類で……リアルな凸されちゃうと本当にびっくりしちゃうので声上げちゃうんですよね」


 なるほど、確かにコンちゃんがホラゲー実況をしているのは観た事がない。


「じゃあ今度やってみるか?」

「ば、バカ言わないでくださいよっ、そんなことされたらシューチさんのおうちに居座っちゃいますよ!?」

「絶対にやめた方が良いな」

「もう夜しか眠れなくなりますっ!」


 最後のはそれでいいんじゃないか?

 そして、紺は話を戻す。


「まぁ……扉の音か物音が聞こえちゃったと思うので、とりあえずお母さんがいきなり部屋に入ってきたことにしました」

「そこはお父さんじゃないのか」


 そう尋ねると、むっとされた。


「何を言ってるんですか、いくら本当にお父さんであろうと男を匂わせるのはアンチの元です、絶対に兄も父も出しちゃダメです!」

「お、おう……」


 俺だから、豚だからこそ、すごく納得のいく言葉だった。


「アンチからお気持ち表明されたら私のメンタルが崩れ去るんですからね!」


 そして、凄まじい剣幕で言われてしまった。

 紺にも色々あるんだろうな。

 まあ俺は理解出来ない大変さがあるのだろう。



 ………………………………………………………………………



 食事が終わったので食器を流し台に置き、紺に渡す。


「お皿ありがとうございますっ」

「こちらこそ、今日もすごく美味しかったぞ」

「本当ですかー?♡」


 すると、紺は嬉しそうに言うのだ。


「良かったです、そう言ってくれるのを見越して、肉じゃがをたくさん作っておきましたからねっ♪」

「いや、もう食べれないけど……」


 今日もお皿にたくさんよそって貰った。

 じゃがいもって結構腹持ちいいんだよな。

 そう思っていると、紺はタッパーを取り出した。


「違います、持って帰ってくださいねっ♪」

「え、なんで」

「作り過ぎちゃったので♡」


 さも当然のように言う。


「作り過ぎたって……え、どういうこと」

「だって晩ご飯はどうせモヤシかカップ麺しか食べませんよね?」

「モヤシだって十分に野菜だ」

「そういうことを言ってるんじゃないですよー!」


 俺のツッコミに対して頬を膨らませる。

 そして、紺はとにかく押しが強かった。


「私もこれだけの量は食べきれないし、捨てちゃうのも勿体ないので貰ってくれませんか?」

「捨てる!? それは勿体ないな……」


 紺の料理はすごく美味しい。

 お世辞にも、お店で出しても問題ないくらいには箸が進むのだ。


「でしょう? だから貰ってください、ほら!」

「それなら……まぁいいか……」


 こうして俺はお裾分けしてもらう事になった。

 押しに負けたのは、紺の作った料理が好きなだけかもしれない。

 だが、タッパーを返しに行かなくちゃならない。

 また彼女に会う口実を作ってしまった。

 大事なことだから何度も言うが、紺とは会っちゃいけないとは思っている。

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