第8話 何を作ろう
「家にある野菜はまだ全然残っていますよね?」
帰り道、
あれから2,3日が経ったが、俺のことだから使っていないと思ったのだろう。
だから俺は胸を張っていった。
「それなりに使ってやったぞ」
「えっ!? もしかして料理をされたってことですか?」
紺が意外そうな反応をするので嬉しくなる。
「あぁそうだ、流石に腐らせるのはマズいと思ってな」
「そ、そうですか……」
ちょっぴり残念そうな顔になる。
ま、別にお前がいなくても料理くらい出来るんだよ。
そう言わんばかりに言ってやった。
「あぁ、この前ミキサーにかけて野菜ジュースを作ってみたんだ。意外とうまく作れたよ」
「…………」
紺との間に沈黙が走る。
そしてようやく出た言葉がこれだった。
「……そうですか」
「何だよその顔は」
「いえ、ただ……。ちょっと思っただけです。野菜嫌いの子供みたいだなって」
紺がボソッと言う。
どうやら俺と紺の考える料理というのは違うらしい。
「美味しかったですか?」
「美味しいわけないだろ。けど胃に入れば何でも一緒なんだよ」
墓穴を掘ってしまったのか、そんな言葉に呆れて
「もう分かりましたから、残りの食材を教えてください」
「わかった、ちょっと待ってくれ」
そう言い、俺はスマホを取り出す。
念のため写真で撮っておいたのだ。
いつか自分で調理するかもしれないという保険で。
まぁ、結局無駄になってしまったのだが。
「これだ」
画面を見せると紺はふんふんと頷く。
脳内で調理が始まっているのかもしれない。
「じゃがいもにんじん……分かりました、じゃあシチューを作りますねっ!♪」
「ん、またシチューなのか?」
そう言い、あえて違う料理に誘導しようとしたのだが
「だってシチューとシューチさんって似てるじゃないですか」
似てないし、紺のセンスが分からない。
親近感湧くんですよねーと、街角インタビューみたいな反応やめろ。
いや、別にシチューが嫌というわけではないが、また一緒かと思ってしまった。
「あぁ、そうか……」
「どうかしましたか?」
どうしよう、流石に作ってもらう身としては失礼か。
紺も「作りますね」って断言してしまっている。
でも正直に言うべきか? うーむ……。
悩んでいるうちに紺が家へ向かってしまう。
こうなったら仕方ない、本当のことを話しておこう。
「……シチュー以外作れるか?」
「はい?」
紺が立ち止まり振り返る。頭に「?」が浮かんでいた。
出会った時から殴り合いみたいな会話をしているせいか、やんわりとした伝え方が出来ない。試行錯誤の末、俺は言った。
「せっかくだから他の料理も食べてみたい」
これで良かっただろうか、やはりまずかっただろうか。
だが、予想に反した答えが返ってきた。
「大丈夫ですよ、任せてください!」
自信満々の顔をしている。
どうやら正解だったようだ。
俺が胸を撫で下ろしているところ、紺は苦笑しながら言った。
「良かった、シューチさんがこのままシチューを受け入れてたらどうしようかと思ってました、あはは」
「おい」
まさかのドッキリを仕掛けてきたらしい。
思わずいつもより低い声になってしまう。
「いやいや、まさかシューチさんが遠慮がちにお願いしてくるなんて思わなかったです」
からかっていたことが伺える。
「そういうのは配信や動画の企画でやれよ」
「あー……私そういうコラボ相手とかっていないんですよね、えへへ」
「聞いて悪かった」
たとえ登録者数が50万いようと、仲の良い相手がいるいないは人それぞれだ。
近寄ってくる相手も仲良しと見せかけて、数字稼ぎのコマとして見てくるケースもある。
「でも、シューチさんになら何してもいいと思ってますっ♪」
「親しい仲にも礼儀ありって言葉を知ってるか?」
そんな何気ない一言にも、嬉しそうに反応してくれる。
今だけは配信者として見ないで、一人の女の子として見てあげるのがこちら側の礼儀なのかもしれない。
だけど、言葉にはせず。
そっと、俺は胸のうちに秘めておいた。
「さて、シューチさん」
……と、落ち着いたところで彼女は言った。
「買い物に付き合ってくれますか?」
「いいぞ」
即答した俺だったが、ふと思うことがあった。
「あれ、なんでこんな流れになったんだっけ?」
「さっきシューチさんが私に『他も食べたいな』とか頼んできたからですけど」
「あ、そうだった、悪い。それで何を作ってくれるんだ?」
「ふふん、それはですね——」
何となく予想は出来た。
シチューを作る材料があるというのだから、自ずと出てくるメニューは
「カレーです!」
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