第23話

子供の頃は大のテレビっ子だった。幸運なことに両親は俺がテレビに噛り付いていてもとがめたてるようなことはしなかった。映画やアニメ、ドラマにドキュメンタリー。ニュース以外なら一日中だって見ていた。俺が特に好きだったのはバラエティー番組だった。

当時小学生だった俺は架空の番組を作りキャストを配して企画を作るという空想に耽っていた。

何時しかそれを仕事にしたいと思うようになっていた。

ひたすら空想を続け勉強など全くしなかった。


気が付けば定職に付けず派遣で日銭を稼ぐ有様だった。

それでも脚本を書き続けていた。いつか、いつかきっと使える日が来ると信じて。

俺はいい時代に生まれた。テレビだけが映像を独占する時代は既に終わってた。

YouTube事務所のスタッフ募集の広告を見てすぐさま応募した。募集要項に脚本家はなかったがそれでも何とかなると思った。


非正規とはいえ個人の脚本家として雇われることが出来た。結局ここが俺の人生のピークだった。

収入は決して多くはなかったがコスパはよかったし何より望んでいた仕事ができることがうれしかった。

終わりは突然来た。


「もう脚本を送ってこなくていい、今までお疲れさま」

味気ない解雇通知。文面を目が何度も往復したが理解するのにずいぶんと時間を要した。理解の次に来たのは憤慨。

「俺は失敗していない」そう言い切れる。「お前だって絶好調じゃないか」どうして俺を切るんだ。

何とか復讐してやりたい。俺は直情的にそう考えた。


そんな時に

名前は忘れちまった。一人はあいつの友人を自称する大学生。ずいぶんと行動力のあるやつで危ない橋まで渡っていた。少し鼻に付く野郎だが立派なやつだとは思った。

でも行動力だけであいつの秘密にはたどり着けないとは思う。


もう一人は若い女。

若い女と話すなんていつ以来だろう。なかなかの美人だが傲慢で一方的に話をする奴だった。

あいつにご執心だが肝心のことを知らなかったらしい。

ここで俺は悪戯心が出てきてしまった。

あいつの秘密を話してしまった。傲慢な鼻をへし折ってやりたかったのか、自分より充実した若いカップルを破綻させたかったのか。多分両方だ。

そう、これが俺の人生で一番の失敗。


城島が死んだ。そう知らされた。

ネットでローカルなニュースを調べてみると名前こそ出ていなかったが城島の地域で殺人事件が起こっていた。

そう殺されたのだ。鈍器で側頭部を殴打されたことが直接の死因。それ以上の詳しい情報はわからない。

「まさか瀬川か」

結局瀬川の動機が分からない以上何とも言えない。もちろん的場殺しも瀬川かどうかわからない。


確かに城島は人に嫌われやすい人柄と言えばそうだ。だが殺されるほどの恨みを買うほどの人物にも思えない。自宅で殺されたことから知り合いだろうか。

二度あっただけだが最近会った人物が死んだとなると落ち着かない。

もしかしたら警察が自分のところに来るかもしれない。

「そもそも容疑者の一人じゃないか? 俺」

現金のやり取りも行っている。城島の手元にもし痕跡が残っていれば十分に怪しい。

そうなると冷たいものだ、人の死より自分に降りかかる面倒事に気持ちがシフトしてしまう。


風間さんに聞くところでは「小島さんは君が犯人だと思っているよ、後ろめたいことがあるせいで警察にも相談できずに隠れているよ」とのことだった。

「少し不憫ですね」と伝えると「今までのことを考えるとそうでもない。正直殺されたのが城島さんで驚いているよ、小島さんのほうだったらまだ納得できる」という評価だった。

思っているよりずっと悪どい男だったのだろう。


瀬川も小島のもとで俺みたいな目にあったのだろうか。一つの殺人で開き直り恨みのある人物のもとを回っている。

「考え過ぎかな」

そんなことより自分の心配をしたほうがいいのだろう。いっそのこと自分から警察に出向こうかとも考えたが想像しうる弊害のほうが大きく選択肢からはすぐに消えた。


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