第22話

先程からこいつの下卑た目線が嫌悪感を募らせる。本人は相手にバレてないと思っているのだろうが視線は男が思っているより不快感を与えている。

「あなたはトラ君と一緒に仕事をしていたんですよね?」

答えはわかりきっている。

「他の脚本家のことを教えてください」

知らない? 嘘だろうか。ただ仕事仲間の中では自分が一番優れていて仕事を多くこなしていたことを聞いてもいないのに話している。

「あなたはどこまでトラ君のことを知っているんですか?」

苦い顔からニタニタと気味の悪い顔へと変わる。こんな男と仕事をするなんてトラ君の汚点の一つだ。

「……嘘だ」

そんなこと聞いたことがない。いや、自ら言うわけがないか。

「どうしてあなたがそんなことを知っているんですか?」

ニヤニヤ笑って答えようとしない。

トラ君、私はあなたの共犯者になるよ。



「22時、最悪だ」

記憶を遡ると風間さんと食事をとり、30分ほど歩いて帰ってきた。

「そのあとすぐ寝たのか」

このままでは昼夜逆転してしまう。もう一度朝まで無理やり眠ろうかと思ったが必要以上に頭が覚醒してしまっている。とてもじゃないが眠れそうにない。どんなに継続して規則正しく生活していてもたった一日でこなってしまうのだからなかなかに理不尽だ。

部屋の明かりを付け、スマホを探す。本格的に物を無くすことはないがどこにおいてか忘れることはよくある。どうせ部屋の中にあるとわかっているので焦りはしないがなかなか見つからない。

ようやく見つけた場所は玄関の靴棚の上だった。


スマホからYouTubeのアプリを開く。最近のスマホだと最初からアプリが入っている。幼い頃小さい画面で映像見ると目が悪くなると親に言われていたのを思い出す。

それが影響してなのか今までスマホで動画を見ることはあまりなかった。

「こんな画面で見ても何やってるかわからなくないか?」

適当に上にある動画を開いてみると思いのほか見やすい。それほど最新のスマホではないが十分すぎる画質だ。


検索欄に「DESI」と入れて検索してみると、チャンネルではなく動画がいくつか出てきた。

タイトルを覗いてみると「DESI所属のYouTuberの離脱が止まらない!? 衝撃の理由はこちら」「DESIのオワコン化が止まらない!? いったい何故?」その中からいくつかを視聴する。

挙げられている理由としては、企業案件の仲介手数料が高い、チャンネル登録者数によって運営の扱いが違う、中堅が限界を感じて引退しているなどが言及されている。

ただ度の動画も最後に言い訳がましく推測であることを添えてある。

何となく他人の失敗不幸に付け込んで視聴者数を稼いでいるようで不快に感じた。

「そう考えると瀬川も似たようなもんなのかな」


いつの間にか動画を見漁っていた。最初は「DESI」関係の動画を見ていたはずが気が付くと「過去の知能犯罪」だの「危険な毒物ランキング」だの全く関係ない動画を視聴していた。

「ヤバイ、想像の何百倍も時間泥棒だ。でも信ぴょう性にさえ目を瞑ればやっぱり面白いな、流行るわけだよ」

これに加えてソシャゲやらサブスク、SNSなどもあると考えるとスマホ依存症も他人事ではない。せめて時間くらいは制限しないと底なし沼だ。


灰が舞っている。赤が薄汚い白をゆっくりと染めていく。

黄ばんだ壁紙、細かいゴミが広がっている床、焼け跡だらけのテーブル。

この部屋の中で最も美しいのがこの赤なのは違いない。

これ以上ヤニと汗、そして血の匂いが充満した部屋に居たくはない。

最期にテーブルの上に置いてあるボトルの中身をノートパソコンに注ぐ。

パツンという音とともにモニターが暗くなる。暗くなるとモニターは汚れのひどさがひときわ目立つ。

「何から何まで不快な部屋ね」

空になったボトルをそいつに投げ捨て部屋をあとにする。

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