第18話
YouTubeの配信機能、あまり詳しく無いが比較的最近実装された機能らしい。確かに生配信と言えば別のサイトのほうが真っ先に頭に浮かぶ。
しかしそれは俺の勉強不足が生んだイメージだったらしい。昔と同様に動画投稿をメインで活動しているYouTuberも当然いるが、配信メインで活動している大手もかなりの数いるとのことだ。
「どっちが稼げるんだろ」そんなにいい収入なら俺も、なんて考えたがYouTuberと言ってもピンキリだ。キリのほうになるのが目に見えてる。
今更YouTubeで配信のアーカイブを確認しているのは瀬川のチャンネル、そうアリバイを確認するためだ。気が付いたときはチラッと見ただけで全編通しで確認したわけでは無かった。
配信時間は2時間、これがちょうど犯行時間と被っている。
仮に配信時間中に途中席を外していようが現場まで行き来する時間はない。もっとも犯行現場が別だというのであれば話は変わってくる。
1周確認してみてまず思ったのが動画と配信だと話し方というかテンションがかなり違う。配信の瀬川は俺のよく知る瀬川とほとんど変わらない。
そして瀬川に対して申し訳ないのだが「面白くない」動画のコンセプトとはほとんど関係なしに雑談とあらかじめ来ていた質問にひたすら答えているだけだ。
この配信自体も定期的に行っているためか質問も撮影や動画とは関係のないものが多い。
瀬川の部屋を移した画面が全体の7割、コメント欄を移したものが2割、残りは上部の今の話題もしくは質問のレイアウト。
瀬川も顔の正面ではなくかなり上部、例えるなら監視カメラのようなアングルで映っているうえに動きにも乏しいので必然的にコメント欄ばかり目が行ってしまう。
その視線の重力に抗って何とか1周瀬川だけを見ていたが正直時間の無駄だった。目をつぶっていても同じ満足度だと思う。
とにかく配信中部屋を出たり誰かに連絡したりといった行動はなかった、これだけで一応は収穫だと言える。
一休みしてからはもう一度配信を確認しようとするとスマホが振動する。
「やっほー、起きてた? なんかわかった?」
「少しは。でも肝心なところは何も」
的場の情報を得たこと、瀬川のパソコンに残っていたレポートのことなどを姫子さんに話す。
「なるほどね、でもあんたあんな目にあっておいて小島とかいうおっさんの話信じるの? 嘘かもよ」
考えなかったわけでは無い。ただ今のところあの情報が全てうそだったところで何も困ることがないから暫定信じているだけだ。
「それで同じ配信を何度も見てるわけ? 遠慮なく言わせてもらうと暇人だね」
「返す言葉が見つからないよ」
今自分が調べてることを話したところこの有様だ。
「じゃあやっぱりトラ君には殺せないんだね」
「そうなるね」
「ねえURL送ってよ、私も見てみるから」
「どう退屈だろ?」
「……」
姫子さんと一緒にもう一度二時間モニターとにらめっこしていたが残念ながら新しい発見はなかった。
「あなたって普段配信とか見るの?」
「いや今日初めて見た。初めてがこれじゃあ最後もこれかもね」
「私結構配信って見るんだ。大声ではいないけど兄の会社の競合他社のYouTuberのだけど」
「へえ、そうなんだ。やっぱり瀬川とは違って面白いの?」
「面白い面白くないは人によるとしか言えないけど、この配信はちょっとおかしいかもしれない」
「おかしいって?」
つまらな過ぎて、とまで言おうとしたが機嫌を損ねるかもしれないし俺自身友人に対してさすがに悪い気がして控えた。
「このアーカイブの再生数10万もあるのね、それでこのコメント欄の速さならたぶんだけど1000人くらいは見てたと思うの」
「すごいのはわかるけどチャンネル登録者数からすると少なく感じるね」
「トラ君、この配信中一回もコメント読んでない」
「……珍しい事なの?」
「そういうスタイルの人もいるかもしれないけど、動画メインの人がわざわざ配信してコメントは読まないって『じゃあ動画でだせよ』ってならない?」
「リスナーとリアルタイムでやり取りする出来るのも利点なのにそれを放棄したってことか」
「私トラ君の動画もそこまで見てるわけじゃないの、知ってる人だからこそ敢えて見ないってわかるかな?」
「わかるよ、俺だってこの件で初めてあいつのチャンネル知ったんだもん」
コメントを読まない配信者、これが瀬川のスタイルなのか? もし違うなら。
目を皿にしてモニターの瀬川を見る。瀬川だけでなくデスクの上僅かに見える後方の壁。
「配信のコメントも『こいつコメよまねえな』みたいなのがちょこちょこ見えるね、大半はトラ君のファンだから話聞けるだけで満足なんだろうけど」
「姫子さんコメントまで読んでるの?」
「全部じゃないけどね」
アーカイブは当時の配信中に流れていたコメントも確認できる。一応画面上に表記されているが流れが早いうえに枠も狭くとても読めたものじゃない。
「マンガ本当好きなんでね」ちょうど話題が週刊誌のマンガの話題だからこのコメントはファンかな。「今日コメ読まない感じ?」「いつもあんまりコメント読まないけど今日は一段とひどいな」「もう一時間半もこんな感じなのマジ?」
普段からそこまでコメントを読むスタイルではないらしいがこの日は増して読まないとのことだ。
「こいつマンガ好きって言ってるけ机に置いてるの先週の雑誌じゃね? 袋に入ってるし読んでねーだろwww」
え? デスクの上?
画面が小さい、画面をフルスクリーンにして確認する。
この週刊誌、確か……。
懸命に思い出す。あの日のことを、最後にあいつと話した日のことを。
あの時のカバン、逆の手に持っていたのは……。
もう一度画面を見る。デスクの上のコンビニ袋、ビニール越しだが全体的に赤いデザイン。「やっぱりそうだ、あの時持っていた雑誌だ」
週刊誌なのだから次の週のこの配信日には売っていない。もちろん1週間そのままデスクの上に放置していたのなら話は別だが。
「姫子さん、これって」
スマホの画面を見ると通話は切れていた。
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