第14話

「結局何もわからなかったわね。望み薄だとは思ってたけど少しは期待してのに」

瀬川のマンションを出て再び姫子さんの車に乗り込み、今度は姫子さんの家へ向かう。瀬川から譲ってもらったというノートパソコンを借りるためだ。

「誰かがパソコンのデータを消したかったんだろう。専門的な知識がなかったのか、あってもそのうえで物理的に壊したのか」

「よくわかんないけどだれが何を消したかったのよ?」

わからない。やはり瀬川本人と考えるのが無難ではあるが。


時刻は午後7時、来るときよりも車の数はどうやら増えているようだ。

「明日から週末だし、この時間は混むのよね」

「そういえば瀬川は免許持ってたの?」

「持ってたけどペーパー。怖くて運転させられないわよ」

「じゃあ移動は姫子さんが運転するの?」

「近場ならね。別に運転好きだし気にしないけどね。」

瀬川は公共の交通機関を使わなければ自力で遠出は出来ないと思っていいのだろうか。


何が原因かわからないが来るときより姫子さんも口数が多い。帰りの車の中では映画や漫画の話で少しは盛り上がった。

なんとなくわかってきたが彼女の前で

の話と大学の話を避ければ普通に会話ができる。

恋人の知らない一面を他人(例え同性だろうと)が知っている、大学に行かなった選択を後悔しているのだろう。


渋滞にもまれながらも彼女の住処にようやくたどり着くことが出来た。「ちょっと待ってて」と言われ車の中で待機してもう何分経っただろうか。

姫子さんも立派なマンションに住んでいるらしい。マンションの大きさは瀬川以上小島以下といったところだろうか。最近訪ねる家々があまりに立派で辟易としてしまう。城島のアパートが俺には一番落ち着く気がする。

風間さんは結構稼いでいそうに見えるが姫子さんは何の仕事してるんだろうか。


「ごめんごめん、おまたせ」

大きなキャラ物のトートバッグを肩に下げた姫子さんが助手席の窓をノックする。

「電源付かなかったんだけど、たぶん電池切れだと思うけど。もしかしたら壊れてるかもしれない」

「触ってないで保管してたなら壊れてはないと思うよ」

手渡されてトートバッグの中身を検めると背のところに大手海外メーカーの果物のロゴが描かれている。

「これ結構立派なやつだよ、インテリアにするにはもったいないよ。俺このメーカーのやつ触ったことないけど」

「そうなんだ、じゃあ今度使い方教えてよ。今更トラ君にも聞きにくいし」

俺も詳しいわけでは無いがそれは言わないでおく。


「これで全部?」

「うん。どうして?」

「充電器なかった?」

「あ、そっか」

瀬川と姫子さんどちらの間が抜けてたのだろうか。


結局それから姫子さんが30分探したが充電器が見つかることはなく、俺を送っていく途中で家電量販店で購入することに決めた。

「俺も一緒に探すよ。そっちのほうが早いだろ」と言いたかったがせっかく気を許してくれたのにまた警戒されるだろうと思い慎重策を採った。もしかするともうそこまで踏み込んでもよかったかもしれないが。

それにどんなに仲良くなっても姫子さんは瀬川しか目に入っていないのがわかる分だけ少し寂しく感じてしまう。



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