第12話

「マズイ」また昼過ぎに起きてしまった。

予定が無いから別に構わない、そう去年までは考えていた。長期休暇の間であれば問題はない、しかしそのかん狂ってしまった時間感覚はそうすぐには戻らない。結局学校が始まると朝起きて登校するのが拷問に等しい苦痛と化す。

そうならないためにもできるだけ午前中に目を覚ますように努力をしていたが、努力はどこまで行っても努力のままだった。

「高校時代は出来たんだけどな」

両親という監視者が居なくなったからだ。とうに答えは出ている問だった。


昨晩の残り物を朝飯兼昼飯として胃に流し込むと今日の予定、さらには今後の予定をも考えることにした。

これ以上瀬川のことを追うかどうか。

時間的ゆとりは十分にある。試験期間中ですら追うことが出来たのだ、今出来ないはずがない。

経済的には今までのペースでなら問題ない。精々交通費程度だしこれ以上誰かに会いに行く気も無い。


しかし人一人が死んでいる事件である。無関係なところとはいえ己が不用心で小島のところでは危険な目にあった。仮に、もし仮に瀬川が犯人で自分がそこにたどり着いたとして自分の安全性を保障するのは「1年間の付き合い」だけである。自分に危害を加えないとは絶対には言い切れない。

的場と瀬川の関係性が不明な現状、こんな保証はないに等しい。

いくらなんでも死にたくはない。風間さんが言った通り警察の役目なのかもしれない。一回の大学生が出しゃばり過ぎなのだろうか。これはアニメや映画じゃない。


寝てる間もエアコンを付けていたせいでいまいち身体が重いので散歩をすることにした。考え事をするときは部屋でジッとするよりは歩いていたほうが捗るのだ。

一つの遊具も無い公園という名の寂しい広場で小学生くらいの子供たちがスマホを片手に盛り上がっている。

「ソシャゲかな?」ゲームは好きだし高校の頃にソシャゲに少しだけ触れたが終わりがないというのが自分にはどうもしっくりこなくてすぐやめてしまった。

「やっぱ今は小学生でもスマホ持ってるよなあ」

ということはYouTubeとかも見てるのかな。俺でも知ってる日本で一番有名なYouTuberが子供向けなターゲット年齢層の低めの動画を提供してるのだから知ってるほうが普通なのか。

「さすがに瀬川のことは知らないか」そもそも瀬川のチャンネルってどの世代に受けてるのだろうか。


子供たちにあまり干渉しないように公園に入り大回りに背後に回り込む。俺の時もカードゲームや携帯ゲーム機で遊んでたりで似たり寄ったりだな。

しかし日陰の少ないこんなだだっ広い場所だと暑いし液晶も見にくいだろうし屋内で触ればいいのにと思ってしまう。「今の母親も外で遊べって言うのかな?」結局俺の時は外でインドアの遊びをするというだけを忠実に実行していた。


ゲームオーバーになったのか手持無沙汰となった子供が一人がチラチラとこちらを窺っている。不審者と思われたのかもしれない。

日中にボサボサの寝ぐせだらけの髪にジャージにタンクトップ、小学生からすれば十分警戒の対象であろう。

結局特に何をするでもなく公園をあとにする。


「散歩するほうが考え事が捗る」と息巻いてみたものの思考が寄り道ばかりしている。

いや考え自体は「やめたほうがいい」という答えを出し続けている。

結論付けようとするたびに思考が明後日の方向へ独り歩きしてしまう。結論を受け入れたくないと脳が駄々をこねている。


エアコンで冷え切った身体の芯に紫外線が皮膚だけを焦がし内と外でアンバランスな状態。

サンダルで出てきたので足の裏まで熱を帯びてきた。

喉が渇いたので自販機でジュースを買い一気飲みする。飲んだ先から汗となりこめかみから流れていく。

外出予定が無い限り普段着がそのまま寝間着になってるため首回りがやや汗臭い。

「なんで散歩してたんだっけ?」


30分ほどして戻った部屋はまるでサウナだ。

急いでエアコンのスイッチを入れて汗をぐっしょり吸った服を着替える。

ベッドに腰を下ろし一息つくとスマホから通知音が鳴る。「誰からだろ」確認してみると意外な人物から連絡が入っていた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る