第2話

 病院で彼女のに会った次の日から、私は本格的に彼女の叶えたい事を手伝う事になった。

「えーと……ここで合ってるかな。美波さんの家」

 二つ目の彼女の願いは、一緒に学校に登校するというものだった。




 昨日、喫茶店を出た後に、彼女は私に、メモ紙を渡してきた。

 見てみると、何処かの住所の様なものが書いてあった。

「なにこれ?」

「私の家の住所!」

 困惑する私を置いてけぼりにして、彼女は続ける

「私の叶えたい事二つ目! 一緒に登校する事!」

「そんなの貴女ならいくらでも出来るでしょ……。友達もいっぱい居るんだし」

 彼女はいつも人に囲まれていて、学校の登下校に友達などと一緒に歩いている姿なんて、容易に想像できる。

「実は私、いつもお父さんに送り迎えしてもらっててさ。歩いて誰かと一緒に歩いて登校した事って無いんだよね」

 そうだった。

 彼女のこの天然というか、少し間の抜けた感じの話し方で忘れていたが、彼女は病院に通う程の、心臓病を患っているのだった。

 少しの罪悪感を感じつつ、手伝うと言ってしまった手前、断ることも出来ない。

「そっか……。で、何時に行けば良い? てか大丈夫なの? 歩いて」

「やった! 大丈夫だよ! 無理しなければ!」

 若干不安な気もするが、彼女が大丈夫というなら大丈夫なんだろう。

「明日七時半に私の家に来て! 待ってるから!」




 そうして、今に至るわけだ。

 「あ、おはよう!」

 玄関から彼女が出てきた。

 制服を着た彼女は、まさに私が知るいつもの人気者の姿だった。

 こんな彼女が本当に心臓病なんて患っているのか? と思ってしまうほどだった。

 「ん? どうかした?」

 いつの間にか私の隣に来ていた彼女が、私の顔を覗き込みながら聞いてきた。

 昨日も思ったが、やはり彼女の顔はとても整っている。

 簡単に言えば美人だ。

 白く透き通ったような肌に、大きな瞳、艶やかな黒髪。

 思えば彼女が色白なのは、あまり外に居ることがないからなんだろう。

 ……なんて考えている暇はないのだ。

 「別に……。じゃあ行こうか」

 「うん! じゃあ、手!」

 そう言いながら私に手を差し出してきた。

 「えっと……。何?」

 「叶えたい事だよ! 手を繋ぎながら登校!」

 相変わらず突拍子もなく変な事を言う。

 いい歳した高校生2人が手を繋ぎながら登校なんて、いい笑い者だ。

「なにそれ……。小学生でもあるまいし、そんなのが叶えたい事なの?」

 そう言ってから、私はハッとした。

 彼女はいつから心臓が悪いのだろうか、もし、生まれつきなのであれば、小学生の頃も親に送ってもらってたのではないか。

 そう思っていると。

「えー! 今時の仲良しな高校生は、手を繋ぐぐらい当たり前だよ!」

 ……考えすぎだったようだ。

「まぁ、協力するって言ったのは私だし……。もうなんでも良いか……」

 私は彼女の手を取った。

 少し照れ臭いが、まぁ、慣れるだろう。

 ふと彼女の方を見てみると、良い笑顔をしている。

「ふふふっ。じゃあ行こうか!」

「はいはい。ゆっくりね」

 そうして私たちは、手を繋いで歩き始めた。

 


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