彼女のしたい100の事

ハルトマンのねこ

第1話

 私は何処にでも居る普通の女子高生だ。得意な事とかはなく、放課後は友達と遊んで、家に帰れば家族と過ごして、そう言うごく普通の人生を歩んでいる。

 そんな私だけど、ひとつだけ普通じゃないことがある。

 それは……。


 


 学校一の人気者、南美唯の秘密を知っていると言う事だ。




 私は部活の最中にした怪我の経過を診てもらうため、病院に来ていた。

 待合室で座っている所に、偶然通りがかった人がいた。

「あれ? 確か……京香ちゃん、だよね?」

 綺麗に手入れされた黒い髪に整った顔、紛れもなく『南美 唯』だった。

 彼女は人気者で、周りにはいつも人が集まっている。

 そんな彼女が私の名前を覚えていた事に正直驚いた。

 始業式の日、クラスルームでの自己紹介でしか、私の名前を名乗ったこと無かったのに。

 彼女がみんなから好かれる理由が分かった気がした。

 なんてことを考えていると、彼女は少し暗い表情をして言った。

「変な所見られちゃったね……」

「……変な所?」

 病院が変な所なのか? なんて思いつつも彼女の顔を見ると、どんどん暗い表情になっていくのが分かった。

「私の話……聞いてくれる?」




 訳も分からぬまま、私は病院近くの喫茶店に連れてこられた。

 席について、彼女はコーヒーを、とりあえず私はカフェラテを頼んだ。

 頼んだものが届くまで、ずっと彼女は思い詰めたような顔をしていた。

 そして注文したものが席に届くと、彼女は静かに話し始めた。

「実は私、昔から心臓が弱くて、こうして定期的に病院に診てもらいに来てるんだ。」

 何故急にそんな話を私なんかに、というかそんな話を私なんかが聞いてしまって良いのだろうか。

「それで、京香ちゃんにお願いがあるの」

「お願い……?」

 状況が飲み込めず、手に持ったカフェラテを飲むのを忘れているような私を無視して、彼女は続ける。

「私の叶えたい事の手伝いをしてくれないかな?」

「え、ていうかなんで私なの?」

「だって京香ちゃんには、私が心臓の病気だって事バレちゃったから……」

 バレちゃった?

 全く意味が分からなかった私は、動揺しながらも聞いた。

「どうしてバレたって思ったの?」

「だって循環器科から出てきたのを見られたから……」

 彼女は前髪が目にかかる程、俯きながら答えた。

 循環器科? 全く聞いた事も無い科だ。

 まさか自分からバラした事に気が付いていないのか。学校では人気者の彼女が、実はかなりの天然さんだって事なのか?

 そう思うとなんだか無性に笑けてきた。

「あはは、貴女面白いな。うん……私なんかで良ければ付き合うよ。その叶えたい事ってやつ」

 私は彼女の叶えたい事とやらに協力することにした。なんとなく、楽しい事が起きる予感がしたのだ。

「ほんとに?! ありがとう! もう一つ叶っちゃった!」

「え? 私まだ何もしてないけど?」

 普通に困惑する私に、彼女は言う。

「ううん! 一つ目の叶えたい事は、『私の秘密を知ってもらう』なの!」

 こうして私のなんて事ない普通の日は、彼女のために、普通では無くなるのだった。

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