戦闘後ワチャワチャ
暫く夕暮れに染まる空をボーッっと眺めていた。
メアの赤い火の粉のような粒子が、まるで空に溶け赤色を付けてるみたいで、魂が世界に還元されてるような錯覚を覚えながら、少しの物悲しさと、少しの安心を感じた。
「次に生まれて来るときは、普通の幸せと楽しい人生を送ってくれ…」
遅れてやってきた”人を殺した”という精神へのダメージは、まぁ無い訳ではない。見た目が人から掛け離れていた分まだマシに感じているだけかもしれないが。
気持ち程度の黙祷をする。
「……」
わかっている、これは自己満だろう。
敵だから殺しても仕方ない、と簡単に割りきれるほど、俺の心は強くなかった。
「…熊とは違うよな、やっぱり」
倒した嬉しさはなく、肩を落としながら切り落とされた左腕を拾う。
ふと、メアの死体に目を向けた。
「おい…マジかよ」
そこにメアの死体は無かった。
憂鬱だった気持ちが一瞬で焦燥へと変わる。
慌てて周囲を確認すると、上空に一部不自然にボヤけた空間があることに気付く。
そしてその下付近、メアの死体がまるで吸い寄せられるように浮いていた。
「な、なんだ?キャトルミューティレーション??」
印象としてはUFOが牛や人を拐う時の光景さながらだった。生キャトルだ。
ボヤけた空間を
それを見て俺は
(別に死体を持って帰りたいのなら好きにさせよう。ここにあっても処分に困るし、あまり見たくはない)
そう思い、見送ろうとした。が、
「バカ!今すぐに落とせ!!!」
どこからか聞き馴染んだ声で怒鳴られた。
振り向き声の主を確認する、師匠だ。
なんと言うか見た目が凄まじくボロボロだ。片方の腕が無く、全身から血が流れて、服も裂け色々とヤバそうに見える。
「落とす必要が?それよりもその傷治さないと死にそうだぞ師匠」
なんとなしにそう返す。
「阿呆がっ!あのまま返せば王国に報告されるんだぞ!?追手が押し寄せてもいいのか!?」
それは不味い。下手したら研究所の襲撃が困難になる可能性もある。
「確かにヤバいっ!!」
故人を偲んでる場合じゃなかった。すまんメアの体よ、その船と一緒に爆散してくれ。
「
光の剣を片手に、船に向かって全力でジャンプした。飛行はできないが今の俺ならそこそこ高く跳べるはずだ。
目算通り、勢いよく跳んだ俺はぐんぐんと距離を縮める。飛行船まであともう少しの所まで近づくも、しかし残り数十メートルの距離が届かない。
「このくそっ!」
手に持った光の剣にありたけの
推力も尽き、俺は自由落下を始めた。どんどん離れていく飛行船。
(ああ…ダメだなこりゃ)
そう諦め掛けた時だった。
「キューロさん!私が足場になって支えます!!もう一度跳躍を!」
聞いたことの無い女性の声が聞こえ、俺はそちらを向く。
亜麻色の髪をした褐色美人が俺の下から跳躍して来ていた。
(いや、どなたですか?)
そう突っ込みたいが、今は余裕がない。
女性の言葉を信じて体勢を立て直し、そして接触する。
女性は俺の両足を掌に乗せ、下から両手で支える。下と上からの衝撃を肘を使い殺しつつ、反発するバネのように俺を押し出した。
(マジか、凄い怪力だ。ってか何者?)
「悪い、少し借りる」
俺はそう言い、女性の両手から再び射出された。
風を切り、さっきよりも数段速い速度で飛行船へと接近する。
メアの姿はもう見えない。船へと収納されたようだ。
先ほど落下したポイントを通りすぎ、再び剣に力を流し込む、伸びた光の刃を力の限り振り抜いた。
「うっりゃぁーー!!」
『バヂヂヂヂヂヂヂヂヂッ!!』
獲った!そう思った瞬間。障壁のようなモノに光の刃は阻まれ、激しく放電した。放電の余波が俺の方にも飛んでくる。
『バチっ!』
ダメージはほとんど無いが、弾かれまた距離が空いた。
「くそっ、リトライまでしたのに!!」
再度落下していく。
飛行船は向きを変え一気に加速する。あの方向は王国だろう。
━━━━ダンッ!!
着地した俺は、去って行く船を今度こそ見送ったのだった。
□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
「師匠すまなかった。傷大丈夫か?」
もう船を追いかけることはできない。やることはやったのだから今はできることをしようと、謝罪しながらアトラへと近寄る。
「師匠?」
アトラは呆然とした顔でこちらを見たまま喋らない。
どうしたのだろうか?血が足りなくて朦朧としているのか?大変だ、意識レベルを確認しないと。
そう思い耳元で「大丈夫ですかー!?聞こえますかー!?今どんな状況かわか━━━━ごふっ!?」
腹に膝蹴りされた。
「耳元で五月蝿いわっ!糞キューロが!」
「ゴホッ…んじゃあちゃんと返事しろよ師匠…ゴホッ、心配するだろ」
「し……心配。してくれたのか?わ、私を…」
「ん?そりゃその見た目だし、ってかあの女の人は師匠の知り合いか?凄く強いと思うぞあの人」
師匠がモジ子モードだがスルーして質問する。
少し離れた場所でこちらの様子を窺う褐色の美女。何故か近くに来ようとはしない。シャイなのだろうか?
「…………」
聞かれたアトラは黙ったままだ。スルーに怒ったのだろうか?それともまた意識レベルの確認しないといけないか?と溜め息混じりに声を掛けた。
「はぁ師匠、黙ってたら何もわからん」
「ああ…そうだな。あの女が誰なのか私は知らない。だが、もしかしたらあの容姿は…しかし確証が…。それとお前、後で覚えとけよ」
何か含みのある言い方をする。後の話は知らん。
「助けてもらったし、俺の名前も知ってたんだが?」
それにしても”キューロさん”か…そんな呼び方するやつの心当たりはこの世界に一人しかいないんだが、どう見ても思い当たるガチムチではない。
師匠はまだ思案顔だ。
仕方ないのでこちらから話しかけてみる。
「なぁあんた!さっきは助かった!結局失敗したけどありがとな!」
そう声を掛けた。
「…あ、あの…わたしは…その…」
なんだろうか師匠以上にモジモジしている。
「とりあえず話を聞きたい!こっちに来てくれないか?」
そう呼び掛けて見たのだが。
「そそそそのっ、ご、ごめんなさい~!!!」
女は走って逃げていった。
「ふぁ?なんでじゃい?」
(顔か、顔が生理的に無理とかそんな感じか?傷つくぞおい)
ちょっと泣きそうになった。
なんでやねんと思いつつも、女性を追いかけたところで悲惨な結果になりそうだ。もうそっとしておこう…。
若干凹みながら師匠の方へ振り返ると、師匠は倒れてピクピクしていた。
「言わんこっちゃない!」
急ぎ近寄り、全力で
(なんだこの傷?治りが悪い)
体に数ヶ所ある刺し傷のようなものの治りが悪い。
一度
「これは?何かめり込んでる、これが
師匠の顔は白を通り越して真っ青だ、少し熱も出てきている。早く異物を取り出して傷を塞がないとこのままでは失血死間違いないだろう。しかも傷は服の下にもある、脱がして確認する他なかった。
「あぁ…もう、恨むなよ師匠」
仰向けに寝かせ直し、できるだけ直視しないように服を脱がす。とは言っても片手しかないので殆ど破って脱がせた。通報されたら人生終わりだ。あ、そういやとっくに指名手配されてたわ。
白い肢体が露になる。
俺は急ぎつつ血が出ている箇所だけを集中して確認した。
見える範囲で7箇所。異物はどれも結構深くまで入ってしまっている。
「クソっ片手しか使えないのに…」
左手はメアに切り落とされた。それどころか右肩も負傷していて感覚が鈍い。
悪態を吐きつつ傷口に指を突っ込み異物に触れる。指先から
「いああぁっ!!」
異物を取り出そうと引っ張ったとたん、アトラが悲鳴を挙げながら暴れた。
「し、師匠、我慢しろ!暴れられたら片手じゃ治療できない!」
裸の女性に組付くのは緊急事態でも流石に気がひける、できれば大人しくしてほしかった。
周囲に血が飛び散る。熱もさっきより上がってきている。
(このままじゃホントにヤバい)
俺が四苦八苦していると、不意に頭の上から
「私も……手伝います!」
そう声を掛けられた。
顔を上げる。
そこには先ほど逃げ出した褐色の美女がオドオドとしながら俺に数本のポーションを差し出していた。
「ま、先ずはあなたの腕の治療を…」
まるで女神のようだった。
人を顔で判断するような女だと思っていたさっきの自分をぶん殴ってやりたい。
「ああ、本当に助かる!礼は後で必ずする!」
心からの感謝を伝え、俺は受け取ったポーションを自分の左腕へぶっかけた。
「師匠必ず治す、俺を殺すまで絶対死ぬなよ…」
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