襲撃




俺が手渡された黒い棒の説明を師匠に求めようとした次の瞬間。



「伏せろっ!」


『ドッッゴォォォン!!!』



師匠の叫び声と同時。

巨大な光弾が拠点の壁を突き破り、拠点が埋め込まれていた山肌ごと爆発した。


凄まじい破壊の衝撃とともに俺たちは吹き飛ばされる。



「━━━━━━━━━!!!」


不幸か幸いか、その光弾は俺へ直撃することはなかった。が、着弾、爆発した衝撃で体が空中へ大きく投げ出された。


「っつ!飛べないって!!」



爆発による負傷はあるが、まだ体は動く。しかし結構な高さだ、今の俺なら簡単に死にはしないかもしれないが、落ちれば間違いなくただでは済まない。


「緑煌眼!!」


俺は緑煌眼を発動させ、落ちながら周囲の状況を素早く確認する。

一緒に吹き飛ばされた拠点の瓦礫を足場にし、拠点横にある滝へ向かって瓦礫を蹴り、跳んだ。

飛散した瓦礫と共に滝壺へと落ちる。



ドッボンッ!!



水中に沈みながらボチャッボチャッと落ちてくる瓦礫をやり過ごし、治まったのを確認してからゆっくりと水上へ顔を出す。

(死んだかと思った。なんだ急に…敵なのか?師匠とグリナスタは?)


拠点があった山肌を確認する、抉られ爆散し跡形もない。


(おいおいマジか…二人は無事だろうか?)

次に攻撃が飛んできたであろう方向へ目を向ける。


「なんだ…あれは?船?飛行機?」

思わず声が漏れる。


拠点より300メートルほど離れた地点の上空に全長40メートルほどの船舶のようなモノが浮かんでいた。


船底には魔方陣のような光がゆっくりと回転している。

船の前方には煙を出す筒が付いており、知識からもそれがなんとなく砲台だとわかった。



「この世界全っ然ファンタジーじゃねー」

一人そう溢した。




□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■




俺は滝壺から顔だけ出して岩と岩の間からその船を観察する。船はあれから動く様子はない。

今は冬だ。今は興奮していてあまり感覚がないが、このままだと凍え死ぬ。

見つからないように岩の影に隠れながら滝壺から出た。

ずぶ濡れだ。寒い。

服をリバースで乾かそうと思い、服に手を当て唱える。


「リバース」


ウィーーーーーーン。ガコン


??


何の音だろうと岩影からチラリと船の方向を確認すると、砲台がこちらに向いていた。


筒の中に光が収束していく。


「あ、やべ」


直撃すれば死ぬだろう。あの光弾のエネルギーが魔力だったとしても、リバースでどうこうできる威力でも無さそうだ。


とっさに体を動かし、全力で走る。


間に合うのかこれ!!?


砲筒から光が放たれ━━━━━



ドォォーーン!!



爆発したのは俺の体ではなく、船の砲台だった。




□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■




アトラは拠点へ光弾が着弾した直後、自身の周囲に超重力を展開した。と、同時に近くにいた愚弟子と少し離れたガチムチにもその能力を使う。

自分以外に使えば能力の効果は落ちる。が、それは仕方がない。とりあえずこれで死にはしない筈だ。


爆発の衝撃で瓦礫が飛んでくる。しかしアトラに当たる直前、不可視の超重力で押し返され弾き飛んでいく。


この重力鎧グラビティアーマー状態では物に触れることができない。目の前で変顔しながら飛ばされていく愚弟子を、素知らぬ顔で見送った。


「ふん、私を軽くあしらった報いだ、バカ」

久しぶりに弟子に会い、また苛めてやろうと思っていた。いや、それなりに苛めた。

だがそれぐらいならキューロは何とも思っていない筈だ。



人格が違えど憎い相手だ。大切な片眼を奪われた当初は五体満足で死なない程度なら、とことん絶望を味あわせてやろうと思っていた。だがその考えは彼の経緯を聞いて失せてしまった。


年下だと思っていたのに既婚者で子持ちと聞いて迷いがでた。仮に彼が悪人だったなら如何なる理由があろうとも、迷いなく地獄へ叩き落としていたことだろう。


しかし彼は善人だった。

自分も大変な状態でアトラの命を救ってくれた。彼が善人でないのならば、この世界はほとんど悪人しかいないことになる。


きっと善き夫であり優しい父親だったとして、そんな人間を地獄へ落とせるほどアトラはグレていなかったのだ。


キューロはそれなりに弱い。出会った当時もリバース以外は平凡以下だった。それでも家族に会いたいがため必死にもがき目を見張る早さで成長しつつある。

そんな彼の姿を見て心を打たれた。打たれてしまった。

それもあり最初に感じた憎しみは萎んでしまった。

いくら罵倒し、横柄な態度を取ってキューロを憎もうと努力をしても、師弟の茶番ぐらいにしか感じない。



でも…


それでもやはり、彼は殺さなければならない人間だ。

あのもう一人の存在はこの世界に居てはいけないものだ。


アトラは自分が強い自覚がある。実際、傍目から見てもトップレベルだろう。その自分を片手だけで簡単にねじ伏せ、緑煌眼を奪われた。

この世界の歴史において、これまで天眼の移植など不可能だった。それを簡単にやってのける存在。

更にはそれが邪神であるかもしれないという疑惑。


聖アルケレトス教会国において邪神アグライアは存在を許してはいけない。いや、教会国だけの話ではない。世界を崩壊へ導く危険な存在だ。


だから例え彼が善人であろうとも、アトラは彼を殺すのだ。


それまでは絶対に誰にも殺させも、勝手に死なせたりもしない。


残り1年と4ヶ月。


「その時はせめて私の手で…どうか苦しまずに━━━。…でももし」


でも考えてしまう。もしものその先を…



アトラはキューロに向けていた手を船の砲身へと向き直す。


「under G end」


轟音とともに砲台が爆発し落ちた。

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