グリナスタの経緯

 



 今、俺は師匠に抱きついている。



 まさかの急展開?ノンノンノン全っ然違う。


 師匠がガチムチの胸ぐらを掴んで壁ドンしてるからだ、それを止めるための抱きつき行為である。他意はない。


「貴様らいい加減にしろよ、私の仲間二人に手を出したこと、貴様らの血を持って後悔させてやる」

「ちょ、師匠ー!死ぬ!グリナスタ死ぬから!!ほら泡吹いてるぞ!ってか自分が仮面の翼人って言っちゃってるからそれー!」


 なぜこうなったか。それは行方不明になったアトラの仲間が第五生態研究所に捕まっていることが大きな要因だ。


 師匠は先ほど殺害された男仲間のことしか話ていなかった。間に色々とあった所為で、行方不明になった仲間の話を聞く前にそれをすっ飛ばしてグリナスタがもう一人の仲間の結末を言ってしまった。

 まぁそれはいい、話が早くて助かる。


 が、師匠は怒りで周りが見えなくなり、研究所職員のグリナスタへ八つ当たり中と言うわけだ。

 さっきの俺と立場が逆転した。



 さっき暗部が動いているって言っていたし、これに関してはグリナスタ無関係だと思うんだが…


 俺はちょっとグリナスタに同情する。後で怪我治してやらないとと思った。


「師匠マジでやめろっ!こいつは大事な情報源なんじゃないのか?ってかこの場合そいつが悪い訳じゃないだろ!」


 俺は自分の行動を棚上げして師匠を諭す。

 人が怒ってるの見ると、逆に冷静になるよね。うん


「…………ぬぅ」


 アトラが腕の力を抜くと、ガチムチがズルズルと壁から落ちる。

 ホッ、と溜め息を漏らしていると、


「それで、お前はいつまで私に抱きついているつもりだ」


「べふっ!?」


 顔面をグーパンされた。

 まぁこれは俺が悪い。



 兎に角みんな落ち着こうぜ。




 □■□■□■□■□■□■□■□



 グリナスタに復元リバースをかけ、全ての傷を復元していく。ものの数秒でキレイに治った。


 グリナスタは目が虚ろだったがとりあえず回復した。

軽くビンタしてこっちへと引き戻しておく。


「ん、キューロさん?私は、一体なにが?」


「グリナスタ、疲れていたんだろう寝落ちしてたぞ」

 めんどいから適当に誤魔化した。


「それで寝起きで悪いんだが、仮面の翼人の仲間、第五生態研究所に捕まっているんだよな?その事について教えてくれないか?」


「勿論ですとも、このグリナスタに分かることは全てお話し致します」


 なんかこいつ凄く人格変わったよな?何があったんだよ。




 グリナスタの話では仮面の翼人の仲間、━━━もとい師匠の仲間はもう一人の仲間の男が殺害された直後に研究所へ忍び込んだらしく、それを暗部とメアが捕縛したらしい。

 グリナスタは例の如く拷問官として取り調べに参加。スウェイも加わり、仮面の翼人の仲間であることは直ぐに判明したそうだ。仲間は女だったとのこと。


 取り調べの結果、名前、国籍、目的、仮面の翼人の仲間など幾つか重要なことが分かったが、ただ仮面の翼人の正体については目をえぐっても吐かなかったらしく、最終的にメアが実験に使うからと何処かへ連れていったらしい。

 後でスウェイから融合実験をすると聞かされたのが事の顛末だ。


 女性なのに見上げた根性だ。えぐられる前から即ゲロった俺とは偉い違いだ。


 チラリと師匠を見やると、怒りを抑えた表情のままグリナスタをじっと睨んでいる。


 はぁ…さっきの師匠の気持ちが分かったよ。


 スウェイは俺の予想通り看破系の魔眼を持っていた。

 名前と称号、あとは感情と嘘か本当かの判別、たまに心の声が見えるみたいで、取り調べには持ってこいの魔眼だった。

 こんなやつと長い時間過ごしてきたグリナスタは、最後この男を殺した。いままでどうやってスウェイへの殺意を隠してきたのだろうか。

 不思議に思う。



 色々と情報が集まっていく中。さぁ今後どう動くかと考え始めた時。アトラがグリナスタへと問うた。


「おい、ガチムチ。貴様はなんだ?」


 師匠、その言い方ちょっとはしょり過ぎだからね。もうちょい詳しく言わないと、


「はぁ…」

俺は仕方なく代弁する。


「…グリナスタ、その、なんでお前、俺たちと一緒にいるんだ?俺はお前とスウェイと戦って、その後お前がスウェイを……まぁなんだ…殺した後の記憶が曖昧なんだ」

 その後の事を教えてくれないか、と俺は聞いた。


 ずっと疑問に思ってたし、ってかなんで師匠はこいつを拠点まで連れてきたのか謎だ。


 師匠に視線を向けると、腕を組み、仏頂面で訓練場の隅を見ている。


 視線をグリナスタへと戻す。


 グリナスタはゆっくりと俺の前まで歩みを進め、俺の前で跪いた。

 おいおい、また茶番を繰り返すのかと、俺も顔をしかめたのだが…



「私は貴方に救われたのです。キューロさん」



 その声は顔は、真剣だった。真摯であった。何かを崇める人のそれであった。

 俺はたじろぐ。

 一体なんだって言うのか?俺はこいつに何をしたんだ。


「はぁ?それさっきも言ってたけど俺は何も…」




「いえ、光の神アグライア様。私は貴方に救われました。」




 グリナスタはそう言って俺へと頭を深く下げた。

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