救いの光
スウェイの頭部を破壊したグリナスタは姿勢を崩さず動かない。
俺は何も言えず、その光景をボーッと見ていることしかできなかった。
さっきまで誰も殺さず上手く納めれる方法が無いか?と考えていた。
結果として。
グリナスタがまだ戦うのであれば話は別だが、戦いの最中敵に背を向けてまで同僚を殺したのだ。何となく戦いは終わった気がした。
静寂が、耳に痛い。
しばらく動かなかったグリナスタだが、ゆっくりと槌を上げた。スウェイだったものを見下ろし、静かに泣いていた。
俺は人殺しの瞬間も凄惨な死体を見るのも初めてだったが、その事について特に感じることはなかった。
ただ、グリナスタの内情とスウェイの最後の気持ちを考えた。
当然そんなことわかるはずもないのだが…
グリナスタは自分の武器をスウェイの死体の近くに置き、サングラスを外しながらこちらへ向き直る。
その顔に写るのは人を殺した狂気でも、何かを成し遂げた狂喜でもない。
普通の、優しそうな男の顔しかなかった。
ゆっくりと俺の目の前までくる。
俺は構えない。
グリナスタは手前まで来て立ち止まり、深々と頭を下げてきた。
「すまなかった…」
一瞬何のことかわからなかった。
目の前で醜態を見せたことを言っているのか、同僚が俺を貶したことを謝罪しているのか、襲ったことを詫びているのか。
「別に…俺は」
どんな言葉をかければいい。敵ではあったが今は謝罪してきている。よく分からない。
そうしてる間にグリナスタは続ける。
「すまない、今までのこと全て。…許してくれなくても構わない。君の気が晴れるなら私を殺してくれてもいい」
グリナスタは自分を殺していいと言う。
は?なに言ってんだこいつ。
確かに目はえぐられたし、死にそうなほど痛い思いはさせられたけど。今の俺は五体満足だ。
ましてやこんなめちゃくちゃ訳ありな光景を見せられて、謝罪までされてるのに、はいそうですかと殺すのは俺にはできない。到底受け入れられない。
ただ…思った。
こいつはもう諦め切っている。死にたいんだな、と。
あの日、俺が路地裏で絶望した時もこんな感じだったのだろうか。
いや、人を殺すぐらいだ、俺の絶望なんてきっとこいつに比べたら鼻で笑われるレベルだろう。
だけど今言えることは
「お前を殺したくはない。そして死んでほしくもない。できれば生きてほしい」
そんな無慈悲で無責任な言葉だった。
「私に…………しぬな…そう……言うのか…?」
さっきまで無表情だったグリナスタの顔は悲痛に歪んでいた。
膝を地面につき項垂れる。
こいつの人生がどんなものだったかはわからない。
でも生きるのがつらいのはわかる。
今まで逃げ出せなかった分やっと解放されると思ったのだろう。
でも、俺が死ぬことを許したら、諦めることを認めれば…いずれ自分もこうなりそうな気がした。
それはダメだ。
一度は逃げようとした。でももう絶対に逃げないと誓ったんだ。
だから俺にはグリナスタを肯定することはできない。
でも…救いはないのか?
彼のことはよく知らない。親しくもない。生まれも知らない。
それでも救いがあってもいいだろう。
こんな世界なんだ、そんな奇跡があっても不思議じゃないはずだ。
自分が甘ったれなのは自覚してる。
そんな都合のいいことなんてあるはずもない。
俺じゃこいつを救えない。誰か彼に光を…
そう思った俺の次の行動は自分でも不思議なものだった。
膝をつき、項垂れるグリナスタの前まで行き額に手をかざす。
自分でもなにをしているのかわからなかった。
身体が勝手に動いた。その言葉が一番しっくりくる。
━━━唱える。
「「イノセント・リバース」」
知らないのに知っていた。
誰かと声が重なったような気がした。
かざした掌から光が溢れる。
俺とグリナスタの周りに光の粒子が溢れ、渦巻く。
その光は暖かで春に浴びる陽光のようで。
その光は明るく闇に輝く灯台のようで。
その光は強く暗く沈んだ心を照らす。
パァァァ
光は勢いを増し、広がり続け、再び収束していく。
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