むかしむかし神たちが
side■■■■■■■
━━━およそ5000年前。
とある星。
雲よりも遥か上空にて…
「お止めください神アルケー!」
黒の女神が悲痛に叫ぶ。
「創造した我が子らを贄にするなど、正気ではありません!彼らにも我々と同じように魂が宿り、心があるのですよ!それを星一つ分もの命などと!わかっておいでなのですか!?」
━━人々は塵と化し光の粒子となり、混ざり解け合いながら一ヶ所に集まって大きな光となっていく。
神秘的で…幻想的で…。人がこれまで生きてきた身体も、思い出も、心も、感情も、人種も、性別も何もかも関係なく光の粒子と変わり溶け、他と混ざり様々な模様を成し、一つのただのエネルギーの塊へと変わっていく。
家族も友人も愛する人も何もかもが他と溶け合い混ざり合い…
これは正気の所業ではないのだと、黒の女神は相手を糾弾する。
強大な力の権化がそれに応じる。
「女神■■■■■■■よ。これは既に我々の中で決まり、最終的な段階まで事が進んでいる。今さら一体何を言っているのだ?」
意味のないことを何故言うのかと一蹴する。
「ですが、これはあまりにも酷です!心を持つもの達の死に方ではありません!どうかご再考を!いまなら全ての神を集め、皆で復元すれば全部ではなくともまだ間に合うやもしれません!」
黒の女神は食い下がる。
いくら万物の神とは言え、外れてはならぬ理がある。
だが…
「くどい!
これは我々のこれからのために必要な事である。我々はこれまでも数多を創造し、命を育んできた。そしてこれからもそれを成していく。星一つの命でこれから先、それ以上に天世界を繁栄させることができるのだ」
その為の礎であり、必要な事なのだと黒の女神をはね除ける。
「━━くっ!」
黒の女神は刻一刻と迫る絶望に焦りながらも、何度も説得を試みる。
そこへ━━。
「アルケー様」
清流のような涼やかで透き通った声が響く。
ふわりと美麗な所作で舞い降りたのは、白く輝く光の神、アグライアだ。
「うっ…」
黒の女神は狼狽えた。
よりにもよって何故このタイミングで彼がここへ来たのか?
もしや自分を止めにきたのではないのか。
纏う”色”も”性格”も正反対の黒の女神と光の神アグライア。
普段からぶつかり合い、反発し合う存在。互いに分かり合えないと匙を投げる相手だ。
黒の女神は身構えた。━━のだが。
「アルケー様。私も■■■■■■■と同意見でございます。どうか今一度ご再考を」
そう言い膝を着いた。
アグライアの思わぬ援護射撃に目を見開いて驚きつつも、自身も慌てて膝を着いて頭を垂れた。
「どうかご再考を!」
万物の神アルケーは答える。
「ふむ、アグライアよ。主も星の繁栄を望まぬと申すのか?」
「いいえ、そうではございませぬ。我々の住む天世界は確かに衰えてきているのは事実。ですが、猶予は残されております」
まだ考えるだけの時間はありますよ、とアグライアはアルケーに進言した。
しかし、
「ならば遅いか早いかでしかあるまい。既に始まったことだ、ここからやり直すほどの理由でもない。邪魔立てするな。これ以上戯言を申すならそれ相応に分からせるしかなくなるのでな」
明確な殺意を向けながらアルケーは『黒』と『光』に言い放った。
だが━━
「嫌です」
黒の女神が大扇子を持ち立ち上がる。
「ならばあなたを止めるまでです」
光の神も続いて立ち上がり、腕に輝くナックルガードを現出させた。
それを見た万物の神は嗤う。
「クックックッ…あーーはっはっはっはっはっ!!!…主らは常にいがみ合うものとばかり思っておったんだかな…」
そして
「己の力量もわからぬ、この大うつけ共めが!!!!」
アルケーが吼え杖を掲げた。
刹那━━━。
凄まじい
「あぐっ…!」
「ぐぅっ…!」
『黒』と『光』はその波を正面から受け、遥か遠くへと弾き飛ばされた。
万物の神アルケーは追撃することもせず、巨大に膨れ上がっていく光の塊に向き直る。
「もう間もなく完成する、全てのルフトが集まり次第
控えていた下位の神々にそう指示をだした。
飛ばされた先黒の女神が歯噛みする。
「やはり万物の神は伊達じゃないわね…でも、だとしてもどうにか止めないと…私が…」
「あなた一人でですか?それは無理でしょう馬鹿ですか?いや馬鹿でしたね。」
間髪入れずアグライアが罵ってきた。
重い空気が変わる。
「ああんっ!?やんのかこら!ピカピカ野郎!?」
「そんな時間あるわけないでしょ?ネクラ女神」
ギャーギャーと言い争う二人。
この二人はこれが常である。
━━黒の女神は混沌を司る。
彼女は人々を惑わし、苦しめ、堕とし、そして時に導き、幸せを享受する。
人の人生とは芳醇で━━豊潤で美味だ。
いつも人の生き様をみて一人笑い嗤い、泣き鳴く。
彼女は誰よりも人を愛していた。
どのような魂も輝きを持っている。例えそれが極悪人だったとしても聖女のような人間であっても、ちゃんと
人を愛してやまない彼女だからこそ、彼らは宝であり、庇護する存在。
だから彼女は守ると決めた。
例え自分が神として消滅してでも、だ。
━━光の神アグライア
彼は至って単純だ。彼は人を導き光を当てる。影指すところに光を当て暴き、闇の中では輝き道標となり。暗い心に光を下ろし暖める。
そう、紛れもなく彼は人々の光であった。
そんな彼もまた人々を愛し、慈しみ、何よりも大切にした。
例えそれが極悪人だったとしても、聖女のような人間であっても、誰であれ人は暗闇で路に迷う。迷う者には光を示さなければならない。
人を愛してやまない彼だからこそ、全ての人間に平等に光をあて、導くのだ。
そして今、彼は多くの人間に覆い被さる闇に光を当て導き、解放すると決めた。
例え己が神として消滅してでも、だ。
黒の女神と光の神。
真逆であり、そっくりな二人は、愛する者たちのためにその全てを掛けて立ち向かう。
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