暴力の宴

 

 


鼻息荒く、決意を新たにした俺。ではあったが。


「ぎっやああああぁぁー!」


 2時間後には絶叫していた。ハートはすでにバキバキだ。




 原因はメアの一言だった。

「ちょっと翼出してくれる?」


「は?どうやって?」

 困惑する。

 この世界にきてから一度も翼など出したことなどない。それどころか、自分が翼人と知らされたのが昨日である。


 結果。


「いっ、痛い痛い!いだぁーっ!!」


 無理やり引っ張る結果となった。


 作業は簡単だ。床に腹這いになり僅かに出ている翼を背後からガチムチの拷問官がひたすら引っ張るシンプルなものである。


「うーん、でないかぁ。少し背中に切り込みとか入れたら出てきやすくならないかな?」


 メスを片手に悩ましげにするメア。

 無駄に色っぽい。違うそうじゃない。


「いっ、いや!頑張るから!今出すから!もっと考えよう!?ほ、ほら切っちゃうと逆に支障でるかもだし!痛くて!」


 切ったところで、翼が背中に収納されているわけじゃないだろ!翼はそれ自体が大小に変化するって言ってなかったか?切っても無意味なんじゃないのか?

 でも言えない。言うとさらに痛い目にあいそうだ。


 もちろんそんなこと室長のメアはしっているだろう。これはきっとただの趣味だ。


 どっちにしろこっちは必死だ


 すでに2時間も同じ事をしているのだから、拷問官も疲労困憊の様子。さっきからボタボタと汗が降り注いでいる。


 暇をもて余したサディストの狂気が、いつこちらに向くかわからない恐怖に怯えていた。


「翼人が能力を使うには、翼が広がってる状態の方が効率がいいのよね~。困ったわ、このままだとこの子、解剖以外使い道なくなっちゃうわね」

 さらっと恐ろしいことを言ってくる。


 固唾をがぶ飲みした。

 マジでヤバイかもしれん。


 そんな拷問中。



「室長、今よろしいでしょうか?」

 一人の男が部屋に入ってきて言った。


「ん、スウェイ君なにかしら?」


 メアに今実験中なんだけどなに?と不機嫌そうに顔を向けられた男。


 彼は眼が光るイケメンこと、スウェイ。恐らく彼は看破系の魔眼持ちだ。と勝手に思っている。

 どうやらメアの秘書っぽいことをしているらしい。


 不機嫌な顔を向けられたスウェイだが、気にするようすもなく淡々と報告する。


「先ほど軍部より廃棄翼人の書類が届きました。お取り込み中でしたら後程拝見しますか?」


 軍部…、廃棄翼人…。

 かなり不穏な言葉だ。


「あら、早速確認するわ!」

 先ほどの不機嫌顔とは打ってかわって、声を弾ませ踵を返し立ち去ろうとするメア。


「あの、この翼人はどうしますか?」

 汗だく拷問官が慌ててその背中に声を投げる。


 振り向いたメアは

「あ、あーとりあえず翼広げなくてもリバースぐらいできるかもだからやらせといて」

 と興味無さげに返し部屋を後にした。





 メアが立ち去ったことを確認し、俺はチラッと拷問官を見た。


 うん、バッチリ目があった。


 あーはい。もうなんか本当にすみません。ごめんなさい。


 この拷問官は初日に目をえぐってきた男だ。名前は確か…エグリマスタ…だったはず。

 エグリマスタは一度俺から目を話し部屋の奥をチラッと睨んだ後、俺に視線を戻す。そして


「グリナスタだ」

 そう告げ、腹に蹴りを見舞ってきた。


「ぐぉぇっ!?」


 蹴られた勢いそのまま壁に叩きつけられる。

「うぐはっ!」


 こいつも心読めるのか!?

 痛む腹を押さえつつ思考する。


 いま思えば、出だしから色々と見透かされているような気がしていた。


 エグリマスタ━━━もといグリナスタがポキポキと拳を鳴らしながらゆっくり近寄ってくる。



 数多くのラノベを聴いてきたが、主人公補正とか、ご都合主義をどこかで期待していたのかもしれない。

 が、そんなものはどこにもなかった。


 ドスッ!

「ぐえっ!」


 看破の魔眼持ってるのはスウェイだけじゃないのかよ…。あ、そういやこいつサングラス掛けてたわ。


 バキッ!!

「あがぁあ!?」


 八方塞がりとはこの事だろう。この先、たとえ脱走を計画しようとしても、心を読めるやつが二人もいるのだ。

 本当に詰んでる。考えるだけ無駄だたったかもしれない。


 ゴスッ!

「ううっ!!」


 声を張上げる気力も失せてきた。視界がボヤける。


 バシャッ!


 ━━━しゅぅぅう。


 なにかかけられて身体中から湯気が立ち昇る。


「…こ…れは。」


 ポーションだ


俺にポーションを掛け、スウェイが嗤いながら言う。

「おいおいおい誰が休憩していいと言ったんだい?」


「お…おい…なんだよ、」

 名前ちょっと間違っただけじゃねーかよ。

 そう言いたかったが、最後まで言えず。

 再度、宙を舞う。


 ポーション4本目で漸く解放された頃には、俺に余計なことを考える思考力は残っていなかった。


「い゛え…に…がえ…りだい」


 家族の元へただただ帰りたかった。平凡な日常に戻りたかった。


 ただそれだけを考えていた。

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