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 ロベルトは組織から車を呼び付け、アレスと共に乗り込んだ。運転手は当然のようにロベルトのことを知っている。ブラックミスト。自身の所属する組織の、絶対に歯向かうなと言われているスナイパー。

 戦々恐々と運転するドライバーを尻目に、ロベルトは外の様子をうかがった。天気は悪くなく、風はない。発砲日和だ。それなりに機嫌がいい。

 しかし、それだけだ。伸ばした腕でアレスの頭を撫で、じっと黙ったままフロントガラス越しに道を見つめる。

 車が滑り込んだのは、縦長の地下駐車場だった。

 殺し屋を多く抱え込む、ロベルトが委託を受ける組織のための場所。

「ご苦労様、ありがとう」

 ロベルトはドライバーを労ってから車を降りた。アレスも倣って飛び降り、主人を追従する。両方の足取りは慣れたものだった。重苦しい鉄扉の前にいた警備二名は要件も聞かず会釈だけでロベルトを通した。

 中は広い。外部からは、極普通のビルに見える。ロベルトはエレベーターに乗り、先に乗っていたスタッフは驚いた顔をして、ロベルトの押した階数を見ると数歩下がった。役員クラスの社員しか降りることのないその階は、ロベルトをあっさりと迎え入れた。

 受付の役割で立っている警備は、腰元の銃を触ることもなくロベルトを奥へ行かせる。話をすでに聞いていた。ロベルトが間違いなく、一人の役員の待つ部屋へ向かう様子だけをチラと確認し、すぐに目を逸らした。ブラックミストを直接見たのは初めてで、少し浮かれてすらいた。

 ロベルトはノックもせずに中へ入った。極普通の応接間は、机を挟んだ一人がけのソファーが対面で置かれている。窓は閉め切られブラインドもついていた。部屋にカメラの類はない。そもそもロベルトは、組織そのものを疑っているわけではない。

 アレスは閉められた扉前で自主的に止まり、主人を行かせてその場に伏せた。ロベルトは、空いている側のソファーへと腰掛けた。

「久しぶりだな、ロベルト」

 丁寧な声で相手は話した。ロベルトはふっと笑みを浮かべ、スリングをずらしてライフルをすぐに構えられる位置へと持っていく。

「どうも、元気そうで何より」

 ロベルトの威嚇と挨拶を受け、組織役員の一人であるカイン・スミスは形式的な笑みを浮かべた。

 彼は、コーデリアと懇意にしていたノア・スミスの一人息子だ。

「それでロベルト、私の何を求めてやってきた? 拘束されるのは嫌いなんだ、貴方だから仕方なく席を設けたにすぎない。言われた通りに任務も君のスポッターと有能なドライバーに任せたぞ、だから次は貴方が私の頼みを聞く番だと思うけど、今度は何だ? またコーデリア・ライトの追加情報か? そっちは相変わらずわからない、これはグレイソンにも伝えておいたはずだ」

 カインは足を組みながら一気に話した。ロベルトは目を細め、カインの顔を真っ直ぐに見る。銃で脅しても無駄な人間は面倒だなと、心の中だけで嘆息する。

「まあ、コーデリアの話といえばそうだけど、違うといえば違う」

「じゃあなんだ?」

「僕の犬の話だよ」

 カインが眉を顰める様子を見てから、

「オリバーを僕が拾ったのは、本当に偶然?」

 ロベルトは静かに問い掛けた。カインは口を閉ざし、ロベルトを見つめ返した。その目の中に困惑と疑惑と、過去を思い返す動きを見てとり、ロベルトは彼への警戒を多少緩める。構えてもいいようにしていたライフルは、少しだけ下げた。

 カインのことは信用するほどでもないが、疑う必要もない。

 ロベルトがコーデリアを探すように、カインも探し物があった。カインはずっとノア・スミスの本当の死因を、あの日に何があったのかを知りたがっている。訳もわからず父親が死に、理由を探すためだけに役員まで上り詰めた男だ。その調査のためには、行方不明のコーデリアを探す必要がどうしてもある。そのために、こうしてロベルトと時折情報交換を行なっている。

 不毛な繋がりではあるが、協力関係は確かに結ばれている。

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