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「──グレイソンの捜索がどの程度進んでいるのかは把握していないけれど、同じようにオリビアを探していたジークが辿り着いているのであれば、彼も既に知っている可能性は高い。それはそれで、僕はグレイソンがどのくらい探し続けていたかを知っているから、標的自体は譲っても構わないんだ。……問題は、依頼主がジークだと言うところ。なぜだかわかるかい、オリバー」

 オリバーは黙ったままロベルトを見た。更に詳細を聞きたいことしかなく、半ば混乱しかけてもいた。

 さらりと開示されたロベルトの師匠について、オリバーは一番聞いてみたかった。

 でも、飲み込んだ。

「……、ジークとグレイソンが、標的が被って対立しちまうから、ってこと?」

 ややあって問えば、半分は正解、とロベルトは言った。

「ジークもオリビアに複雑な想いは持っているだろうけど、本当に心配しているのはグレイソンのことだと思う」

「……? グレイソンを心配してたら、オリビアを殺すことになる……のか?」

「いいや、息子が母親殺しの罪状を被らないように、先にジークが元妻殺しの旦那になろうとしているんだ」

 複雑さにオリバーは閉口した。それを受けたロベルトは更に話す。

「本当はジークが行きたいんだとは思うけど、あの通りの年齢だし、同時にあと二人……オリビアを匿っていた元マフィアや元殺し屋らしいんだけど……その二人も殺しておきたいしということで、フリーでやってる僕のところに依頼を出したんだ。ついでに標的は三人ともバラバラに動いてるから、多少大掛かりな仕事になる。この家も一ヶ月は離れるし、アレスも一緒に連れて行くよ」

 いつの間にか足元に来ていたアレスは一声鳴いた。ロベルトが手を伸ばすとすばやく座り直し、頭を撫でられて気持ちよさそうにした。

「他に、何か聞きたいことは?」

 軽い調子で言われ、オリバーは迷った。グレイソンに連絡はするのか、ジークは本当にそれでいいのか──謂わば家族の話であり、元相方のロベルトはともかく、ほとんど部外者の自分が立ち入ってもいい殺しなのか。

 そしてロベルトを師事していた相手とは、何者か。

「……一番気になるのは」

「うん、僕の師匠かい?」

 あっさり聞き返され、戸惑いつつも頷いた。ロベルトも何度か首を縦に揺らし、話した方がいいことだしね、と独り言のように呟いた。

「でもまあ、今日一気に説明するには、長い話になる」

「おれは、聞けるけど」

「オリバー、僕が面倒臭いんだ」

 ロベルトは肩を竦め、立ち上がってからオリバーを見下ろす。

「一ヶ月かかる仕事なんだ、合間合間で昔話をしながら、一人ずつ確実に仕留めに行こう。それでいいね?」

 オリバーに反対する理由はなかった。ロベルトが話してくれるのであればそれでよく、頷きながら立ち上がった。

 ロベルトの正面に立って目線を合わせたところで、同じ高さだと気が付いた。オリバーが口に出すよりも早くロベルトが笑った。

「子供の成長は本当に早いね、オリバー」

 ロベルトはオリバーの胸元を拳で叩き、頼りにしてるよ、と言い添えた。

 今の相方はお前だと、暗に釘を刺されたのだとオリバーは思った。グレイソンの家族の話だろうが、ロベルトの師匠の話だろうが、今いるのは自分で、依頼を請けたのも自分だと。

 オリバーはロベルトの犬で、現在隣りにいる唯一の人間だ。

 ならば、全てにおいてやるしかない。

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