17 転移魔法

「あの人盗撮してます!」

スマホの画面を眺めていたら、突然正面に座る女性がオレに指を指し叫んだ。

ここは電車の中。

乗客の少ない車内でオレはその女性の対面に座っていたのである。


イヤイヤイヤ、動画見てただけだし。

カメラアプリ立ち上がってもないし。


「オイ、スマホの中身を見せろ!」

近くにいた体格のいい青年がオレの前に立つ。

写真がない証拠を提示したところで警察に突き出されるのは確実。

これは明らかに冤罪(えんざい)である。

だが、こういったケースでは疑われた時点で終わりだ。


素直に応じて無罪を主張し続けるか自分に問う。

すると電車が駅に到着した。


「ここで一緒に降りろ!」

やばい捕まる。そう思った瞬間。

オレは、無意識に5倍速のスキルを発動させホームへと飛び出した。


そう、オレは元異世界転移者。

帰還後も異世界での能力がそのまま使えたのだ。


とにかくこの場から脱出しないと。

後先考えず、転移魔法を発動させることに。


・・・


どこの場所に着地したのだろう?

ここがトイレの個室だってことはわかっている。

駅から大分離たはずだ。とりあえず一安心。


するとドアが勝手に開き、女性と目が合う。

「きゃー、男の人がいる!」


ここは女子トイレだったらしい。

やばい、なんて言い訳する?

顔見られた。しかも後ろにも人がいて2人にだ。

どうする、どうする。もう一度転移。


・・・


次は真っ暗な狭い場所に転移した。

身動きが取れない。

複数人の話し声が聞こえる。外だ!


♪バタン

出れた。あれ?


「きゃー。痴漢よ!痴漢!」

多くの若い女性達が、お着替え中のご様子。

ここは女子更衣室だったらしい。

10人くらいの女子に目撃されたてしまった。

最悪だ。なんて日だ。

もう一度転移。今度こそ!


・・・


わらにもすがる思いで、ゆっくりと目を開ける。

ここは倉庫内のようだ。とりあえず誰もいない。

だが、安心するのはまだ早い。

外に出たら女子風呂だったなんてシャレにならんから。


♪ウゥー、ウゥー

出口を探してたら警告音と共に赤いランプが点滅し始めた。


なに?なに?なに事?

とりあえず転移。あ、魔力が尽きてる。

この後、ここが銀行の貸金庫だったことを知る。

ーーー 完 ーーー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る