家庭教師になったけど教え子に告白されて困っちゃう百合

川木

困っちゃう百合

 友達の紹介で家庭教師をすることになった。勉強はできるほうだし、友達とかに教えたりもよくしていたので自信はあった。高収入でうはうは。と言う安易な気持ちで始めた家庭教師。教え子は3つ下の高校二年生。受験に向けてだけどそこまで切羽詰まってもないし、素直で可愛い子だしいいバイトだと思っていた。


「ねー、先生。次のテストでいい点とったら、ご褒美ちょうだいよ」


 と上目遣いにお願いされた時も、可愛いなぁ。私のこと、姉のように慕ってくれているんだろうなぁと思っていた。だから


「仕方ないなぁー。何が欲しいの?」

「物じゃなくて、お願いしたいことがあるんだ」

「ふーん? いいわよ。私にできる範囲ならね」


 と快諾した。それからしばらく。期末テストを挟んで結果が出てから最初の家庭教師の日。私はじゃじゃーん、と自慢げに見せてもらったテスト結果にぱちぱちと拍手をしてお祝いした。


「すごーい。頑張ったね」

「えへへー。でしょ。でね? ご褒美、いいよね?」

「ん? うん、そうね。何?」


 物じゃなく年上にお願いしたい行為と言うことで、どこか保護者が必要な遠出とか、一人で行きにく敷居の高い趣味のお出かけとか、そう言ったことだろうと当たりを付けていた私は軽い気持ちで促した。


「んふふー。あのね、私と、付き合ってほしいの」


 予想外すぎた、いやだって、春休みに出会ってからまだ半年もたっていない。仲良くしてくれているとは思っていたし、悪い印象は全くなく、可愛い後輩と思っていたけど。まさかそんな告白なんて。


「か、からかってる?」

「えー、ひどい。そんな風に私のこと思ってたの? 嘘告するみたいな人間だって?」

「いやその、そう言うわけじゃないけど。でもほら、出会ったばかりだし」

「私、家庭教師に先生がきてくれた時からずっと好きなんだ。一目惚れってやつ?」

「えぇ……」


 一目惚れって。私は自分のビジュアルが悪いとは思っていないし、好かれたことが無いわけでもない。ないけどそれはそれとして、一目惚れはさすがにないんじゃ。それに一目惚れしたって言われても中身はどうでもいいって感じで微妙じゃない?

 とは言え、本人本気で言っているならその気持ちを否定しても仕方ないだろう。どうしたものか。


「駄目なの? せんせー、嘘ついたの?」

「ぐ……そうじゃないけど、私は美奈ちゃんのことそう言う風に見ていないし、こんな風にして恋人になっても仕方ないと思うけど」

「それは……でも、そうじゃなきゃ、先生、私のこと意識してくれないでしょ?」


 美奈ちゃんはどこか拗ねたように唇をとがらせた。その姿は幼くて、無茶を言われてるのは私のはずなのに悪いことを指摘になってしまう。

 最初からだけど美奈ちゃんは人懐っこくて、そう言うしょうがないなぁって許したくなる愛嬌がある。


 話し合った結果、安請け合いした私にも非はある。と言うことで仮に、お試しと言うことで期間限定で付き合うことにした。


「もちろん今後も授業はするし真面目に勉強してもらうけど、次にいい点とったからって延長はなしね」

「期間はいつまで?」

「そうね、クリスマスまで、でどう? もちろん期間中は私もちゃんと恋人として向き合うわ」


 あまり短いと私も大変だし、美奈ちゃんも短期間だからと詰め込もうとするかもしれない。時間をかければ冷却期間にもなるしね。顔で一目惚れなら素を見せればすぐに幻滅させられるかもしれないし、とりあえず受けるしかないだろう。

 頑張ったご褒美として何かねだられるくらいは想定内だった。クリスマスでプレゼントをして、それで終われば綺麗に関係を生徒と教師に戻せる可能性も高いだろう。

 と言う打算まみれでそう決めた。


「うん! じゃあそれで!」


 私の言葉に満面の笑顔で頷いた彼女を見ていると、要望通りにしたはずなのに、何故か悪いことをした気になってしまった。


 







 三月先生のこと、家庭教師の最初から好きだったのは本当のことだ。だけど正確ではない。正確に言うと、もっと前から気になってた。

 私が中学生の時。友達とふざけながら下校してた時、ちょっとしたことで姿勢を崩して転びそうになったところ、後ろからすっと手がのびて支えてくれた。

 振り向いた先にいたのが三月先生だった。気を付けてねと言って普通に離れた。それだけの出会いだった。だけどその一瞬で、ドキッと跳ねた心臓の動きはとまらなかった。

 一緒にいた友達のお姉ちゃんの友達で、名前だけは知れた。だけど三年違って学校も一緒じゃないし、接点なんてなかった。気になるな。どんな人かな。もっと知りたいな。

 そんな気持ちだけがくすぶり続けて、ついに叶った。


 三月先生が私の家庭教師としてやってきた。友達には前に話していたけど、それと色々なことが重なってなんかそう言うことになった。ありがとう、家庭教師を思いついてくれて。ありがとう、紹介してくれて。そしてありがとうお母さん、お金出してくれて。勉強はちゃんと本気で頑張ります。


 ということで、三月先生とドキドキ二人きりの家庭教師の時間を手に入れた。


 もちろん私だってわかってる。たかが一瞬、ちょっと姿勢を崩したのを助けてもらっただけ。ちょっとだけ笑顔をむけてくれただけ。それだけで分かった気になって好きになるなんてちょろすぎる。

 命がけで命を救われたわけじゃあるまいし、それで年単位で気になるほど好きになるのは思い込みがひどすぎる。そう自分でも思っている。

 だからちゃんと目をみて、お話して、本当に好きなのか、好きになってもいい人なのか、ちゃんとよく考えようとした。


 結論はでた。

 好き。めっちゃ好き。すごく好き。好きすぎて死にそう。

 一言話しただけで好印象だったけど、たくさんおしゃべりしてもらってよりわかったけど、話し方も声も好き。柔らかくて優しい話し方で耳に心地よく、ついついうっとりしてしまう。好き。

 お顔はかわりなく美人で好きだけど、それ以上に表情が好き。お声にあった柔らかさで、勉強を教わる中で厳しいことを言われることもあるのに全然そんな風に感じなくて、そうなんだーってなる。好き。

 終わり際に毎回お母さんがお茶菓子をだすのだけど、それの食べ方がちょこちょこ一口が小さすぎて小動物みたいなのもギャップがあって可愛すぎる。好き。

 文字は綺麗だけどちょっと右上がりで略字が多めなのもインテリジェンスを感じてときめく。丸つけの時、最後の問題は必ず花丸にしてくれるのもきゅんとする。好き。

 勉強の教え方が上手なのももちろんだしお仕事なのはわかってるけど、手作りプリントで下準備めっちゃしてくれて時間外の質問にも答えてくれて、すっごく真面目で丁寧で好印象を抱く以外ない。好き。


 と言うことで自分の気持ちがはっきりしたので告白した。そのままストレートにしても全然生徒としか見られていないのはわかっていたので、成績をたてにして強引に恋人ごっこをしてもらうことにした。

 まずは意識してもらうところからだし、優しい三月先生は私のお願いを丸ごと断るのは申し訳ないから妥協して言ってくれると思った。その条件も私が思っていた以上に長期間付き合ってくれるし、私に本気で向き合ってくれている感じが本当好き。

 気の迷いじゃないのかと思ってるのは察してるけど、こっちは本気も本気だ。先生と同じ進路にしたいし人生賭けちゃうくらい本気だ。


 だから恋人になってから頑張った。だけどなんていうか、あまりうまくいった手ごたえはない。


 初デートから思い切って手を繋いだ。私はそれだけでもとってもドキドキしていたけど、三月先生は困ったみたいに笑うだけだった。固くなったり手汗をかくこともなく、私ばかりときめいてるのを見透かされていた。

 デートの時の格好は毎回気合をいれていた。だけどちゃんと恋人をすると言う約束通り三月先生もちゃんとデート服を着てくれるから毎回私はそれに見惚れてしまうばかりだった。

 オシャレな喫茶店に行こうと気合を入れたら、まさかの臨時休業だったことがある。そんな私の手を引いて三月先生は何一つ責めず、むしろこんな非日常も楽しいと他のお店を一緒に探してくれた。

 夏祭りの花火の時。あまりの人混みに離れてしまった私を汗をかきながら探してくれて、勢いよく私の手をとって微笑んだあの花火に照らされた三月先生と言ったら、今思い出してもほれぼれしてしまう。好きになりすぎて、花火よりうるさい自分の心臓に何も言えなくなる私に、先生は困ったように笑っていた。

 秋になった三月先生の大学の学園祭にお邪魔した時、三月先生は当たり前だけど私より年上の大人で、私より広い世界でたくさんの人に頼られている感じで、ずっときゅんとしていた。


 と、とっても楽しく幸せな日々だったけど、三月先生が全然私に惚れてくれている手ごたえがない。

 私が先生が好きで好きすぎてどうしようもないくらい顔に出てしまうと、先生はいつも困ったように笑うばかりだった。もちろんそんな表情も好きだけど、でも子供だから仕方ないって、笑って誤魔化してるってことだから。

 だからもっともっと頑張らないと。そう思っている内に、ついに冬がきてしまった。タイムリミットのクリスマスが近づいてきている。何かしなければ。そんな焦りがあるけど、具体的に何をすればいいのか。今からクリスマスまでにもう一回デートはテストもあるし厳しい。


 クリスマスにかけるしかない。私は勉強以外の息抜きの全部をクリスマスプレゼントに費やすことにした。


「三月先生、青色が好きであってるよね?」

「ん? あってるけど」

「よかった」

「あ、もしかしてクリスマスプレゼント?」

「う、うん」


 念のため確認したところ、あっさり察してしまう三月先生の勘の良さにびっくりしたけど、プレゼントすること自体は当たり前だから頷くと三月先生はにっこりと微笑んだ。


「ありがと。楽しみにしてるね。じゃあ私からも質問。美奈ちゃんはオレンジが好きよね?」

「え、どうして知ってるの?」

「どうしてって。美奈ちゃんも知ってたでしょ。一緒にいて美奈ちゃんのこと見てたんだから、わかるわよ」


 ただの確認だし、私だって三月先生のこと見てて青が好きなんだろうなって思ったから同じことなのに。三月先生が私のこと見てたなんて、もうそれだけで殺し文句だ。赤くなってしまう私に、三月先生はやっぱり困ったように笑った。









 お試しの恋人になった。アルバイトの家庭教師とは言え、普通に先生と生徒で付き合うのってどうなのかと言う思いもある。だけど付き合うとなった以上、時間の経過や自動的に諦めてもらえるのを待つべきではなく、ちゃんと相手を好きにある努力をするべきだと思う。

 だからちゃんと本当に恋人になったと言うつもりで、デートも真面目にしたし、美奈ちゃんのことを知る為に努力した。

 だけど、その努力の上で本気で好きになるってことはないだろうと思っていた。これは美奈ちゃんを馬鹿にしてるとかじゃなく、そんな簡単に人を好きにはならないだろうという普通の意味だ。


 だけどなんというか、とっても困ってしまっている。

 美奈ちゃんとデートをすると、最初から私が本当に好きなのが凄く伝わってきた。うぬぼれじゃなく、私に向ける目がいつもきらきらしているし、ちょっとしたことで赤面していて、可愛すぎるのだ。

 今まで授業中は頑張って猫をかぶっていたと言うけど、さすがに変わりすぎだと思う。


 最初のデートで待ち合わせした時からいつもと雰囲気が違っていた。遠目に高校生らしい可愛さと思って油断しているところに、目があった途端の笑顔とあのキラキラした目。

 その目に胸をきゅんと撃ち抜かれた。


 いやいや、勘違い。と自分を落ち着かせようとしたけど、恋する乙女全開の美奈ちゃんは本当に可愛かった。

 一生懸命私を振り向かせようとして、どう? とばかりに私にアピールしながらどこか必死さがあって、それがまたいじらしくてきゅんとしてしまう。

 お祭りの時、花火に照らされた中じっと私をみつめる美奈ちゃんなんか、目からビームでも出てるのかってくらい煌めいていて、私をじっと見つめる美奈ちゃんのその目力に私は焼き尽くされて、もう駄目だと美奈ちゃんに本気になっていることを認めざるを得なかった。


 本当に、困る。だって私と美奈ちゃんは仮にも先生と生徒で、成人と未成年なのに。恋人なんて。

 恋人になって大丈夫なのか。家庭教師の時間にちゃんと勉強できるのか。親御さんにばれたらどうなるのか。恋人になってからどうすればいいのか。考えることがおおすぎて、本当、困ってしまう。


 と困っている間に、クリスマスがやってきた。


 美奈ちゃんとはクリスマス当日にデートをして結論をだすことになっている。ちょうど土曜日だったからちょうどよかった。今日は私の家にきてもらっている。

 一人暮らしの家なので大した広さはないけど、2人でクリスマス会をするくらいには全く問題ない。

 

「改めて、メリークリスマス、美奈ちゃん、今日までありがとうね」


 健全にお昼の時間とは言え、好きな女の子が家に来るのはちょっとどきどきしてしまうけど、大人として対応しなければならない。

 私は家に来てかちこちの美奈ちゃんを迎え、ローテーブルについてもらって飲み物を用意し、落ち着かせてからそう声をかける。


 今日が期限の日だ。受ける受けないにかかわらず、まずはこうしてここまでの感謝を伝えるべきだろう。今日までとっても楽しかった。そして美奈ちゃんの魅力はよくわかった。美奈ちゃんは勉強も頑張ってくれた。頑張り屋さんで、一生懸命で、それがよくよくわかった。


「もうすぐ届くからね」


 お昼は宅配ピザだ。私が手料理をふるまってもいいのだけど、ちょっとガチすぎるというか、あんまり全力で歓迎されてもちょっと怖いかも? と思って事前に美奈ちゃんと話してお互い好きな具材で頼んでいる。


「う、うん。三月せんせ。これ、メリークリスマス、と言うか、プレゼント……」

「あ、ありがとう。ご飯の後にって思ってたけど、じゃあ待ってる間にプレゼント交換しようか」


 クリスマス会と言えばプレゼント交換だ。メインと言ってもいいし、食事をして場を温めていい雰囲気になってから告白の返事をしてプレゼントを、と思っていたのだけど。でも美奈ちゃんが待ちきれないと言うなら先にしよう。予約した時間まで余裕もあるし。

 そう思って私は用意しておいたプレゼントを棚からとる。


「う、うん。……ふう。三月先生」


 手に取って交換しやすいよう、先ほどの対面から隣に座りなおした私に、美奈ちゃんはさっき自分の鞄から出して膝にのせた大きい包みをぎゅっと両手で持って緊張したように私を呼んだ。

 そのかたい様子に、こんなに緊張しちゃうほど私の事好きなんだなぁって思ってドキッとしてしまう。


 だけどそれと同時にはっとする。そうだよね。私はまだ返事をしていない。私の態度で察しているかもしれないけど、ちゃんと返事して、ちゃんと恋人としてクリスマスを過ごしたほうが絶対楽しい。なのに私ったら、ムードを優先して後回しにして焦らすようなことを考えていた。ちゃんと美奈ちゃんの意見を聞くべきだった。

 と反省しながら、私は美奈ちゃんに微笑みかける。できるだけ安心させるよう優しい笑顔を心がける。


「っ、三月先生にとって、私は、子供かも知れないけど。でも私、ほんとに、本気だからっ。これ、私の気持ち!」

「ありがとう。見ていい?」

「ん!」


 美奈ちゃんの気持ちは伝わってきているけど、本人にはこんなに可愛い恋する乙女の顔をしているって自覚がないのかな? でも今は、言葉よりプレゼントで気持ちを伝えあう時だ。

 私は受け取って、真っ赤になって可愛い美奈ちゃんからプレゼントを受け取る。柔らかい。リボンをほどいて中身をだす。


「あ、マフラー?」

「うん……」


 中から出てきたのは細長い毛糸編みのマフラーだった。私が好きなちょっと濃いシックな青のマフラー。端の方に色の違うラインのアクセントもあり、シンプルながら普通に可愛く日常使いできそうなマフラーだ。

 今使っているマフラーは端っこのフリンジがひとつチャックにかんで千切れちゃったから、その内新しいの買わないとなーって思ってたんだよね。

 気持ちって言うのは、そう言う細かいところまでみていてくれた、そう言う愛情表現ってことかな?


「ありがとう、可愛くてすごくいいね」

「よ、よかった。本当はもっと長く、2人で使えるくらいにしたかったんだけど、ちょっと時間が足りなくて」

「……え? これ手作りなの!?」

「え? う、うん。既製品に見えた?」

「えー、見えたよ。完全にそうだと思い込んでた。えー、すごい! こういうの得意なの?」

「ぜ、全然。今回が初めてで、初心者向けの一番簡単なのにしたから、その、模様とかいれられたらよかったけど、間に合わないと怖いから、ラインいれただけだけど」


 そうまるで言い訳するようにやや早口で美奈ちゃんは説明してくれたけど、いや普通にめちゃくちゃすごい。すごすぎる。手作りなんて考えたこともなかった。

 そう言うことか。気持ちって、この手作りマフラーを時間と愛情をかけてつくるくらい本気ってことか。


 うっ、嬉しい!! 他の子からもらったら重すぎるプレゼントだけど、他ならぬ美奈ちゃんから、瞳をうるませながらされた手作りマフラーが嬉しくないわけない!


「美奈ちゃん、ありがとう。すごく嬉しい。手作りってきいて、もっともっとお気に入りになっちゃった。どう? 似合う?」


 私はマフラーに頬ずりしたいくらい感激したけど、さすがにそれは気持ち悪いのでさっそく首に巻いてみた。


「あ、に、似合う! えへへ、自画自賛だけど、すごく似合うよ」

「ありがとう。じゃあ、私もプレゼント。私もね、これ、私の気持ちだから。開けてくれる?」

「えっ……うん」


 頬を紅潮させてはにかみながら褒めてくれた可愛い美奈ちゃんにたまらなくなって、私はちょっと押し付けるくらいの勢いでプレゼントを渡してしまう。危ない。紙袋がつぶれるところだった。

 美奈ちゃんは真剣な顔で受け取ってくれて、そっと中から取り出した。


「? これは……え?」

「まあ、開けてよ」


 紙袋から取り出した細長い包装された箱に何かを感じたのか困惑したような顔をする美奈ちゃんに、私は先を促す。

 美奈ちゃんは声に出さずに頷いてからさらに開封する。中身はネックレスだ。指輪もちょっと考えたけど、指輪はペアだからいいんであって、高校生でまだつけられない美奈ちゃんにあげても仕方ないかな、ということで。石付きと言うことで、ちゃんと本気は伝わるよね?


「綺麗……」


 うっとりとしてくれる美奈ちゃんにうんうんと頷く、しずく型でシンプルだからこそなんにでも合うし、我ながらなかなかのセンスだと思う。手作りには負けるけど。


「それね美奈ちゃんの誕生石、ガーネットなの」

「え? ガーネットって赤いんじゃ?」

「マンダリンガーネットって言って、オレンジ色のもあるのよ。気に入ってくれた?」

「う、うん! すごく可愛いし、それに……こ、これ、気持ちって言うのは、あの……」


 真っ赤なまま期待したようにじっと私をみる美奈ちゃん。ここまで来れば美奈ちゃんも私の気持ちを疑うことはないみたいで、私はそっと手を握る。


「うん。好き。ネックレスなら学校でもつけられるよね? ずっとつけていてくれる? 私の恋人の証として」

「! うん! うっ、嬉しい!」

「あらら、泣かないで。ほら、つけてあげるから顔あげて」

「う、うんっ」


 感極まったのか泣き出してしまった美奈ちゃんに苦笑しつつ、ネックレスをとって美奈ちゃんの後ろに手を伸ばしてネックレスをつける。うん。今日の服装にもいい感じ。


「似合ってる、綺麗よ。美奈ちゃん。返事遅くなってごめんなさい。いつも一生懸命な美奈ちゃんのこと、私も大好きになりました。これからも恋人としてよろしくね」

「……うん! 私も、大好き!」


 美奈ちゃんは自分の胸元で揺れるトップを指先でつついてから、ニコッと笑って私の大好きなきらきらした笑顔で応えてくれた。

 ああ、可愛い。可愛すぎて、困っちゃうな。これから配達が届いて昼食なのに、何もかも無視して抱きしめたくなってしまう。

 こうして無事正式に恋人になれた私たちだけど、美奈ちゃんが未成年のうちはずっと、魅力的すぎる美奈ちゃんに困ってしまう私なのだった。



 おしまい。

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