130.ドラグーンさん、内心
「ああああ!!」
約束の日を明日……いや、日付を跨いで、今日に控えた深夜1時。
ベッドの上で彼は叫ぶ。
別に彼は適当に付けた自身のパーティ名を復唱しているわけではない。
ただ、悶えていただけだ。
最初の魔王ソロ討伐を成し遂げ、魔帝討伐も達成し、最強のプレイヤーとの呼び声もあるクラス:ドラグーンの彼のプレイヤー名はシゲサトといった。
「あかん……! 緊張して全く眠れん」
そんな彼は約束の日の前夜、一睡もすることができなかった。
◇
翌朝……5時。
ちょっと攻めすぎだろうか……
鏡に映る自身の姿を眺めながら彼は思う。
暑い夏に膝丈程度の短めのズボンを履いたことはある。しかし、ここまで短いのは初めてだ。彼は自身の履いた太股の上部辺りまでしかないデニムを眺め、佇む。
なんかスース―するな……
だけど、こうして見ると……
自身のスタイルを見て、彼の心はちょっぴり揺れる。
二本のすらりと伸びる脚。そのどこか優しさを帯びたフォルムは、彼が望んではいなかった性を感じるものであった。
「少し……
だけど……!
彼はきゅっと口元を縛る。
自分のことなんてどうでもいい。そう決めたのは自分だ。
眠ることを諦め、幾分、早く支度を始めてしまったが、それが功を奏したかもしれない。
アクアリウムにおいて、新しい水槽に魚を移す際、その生体が入った袋を水槽に浮かべて、新たな環境への負荷を減らす”水合わせ”を行うという。
家の中で3時間ほど、その格好で過ごしたことで、シゲサトは何とか外に出ることができるくらいには羞恥心を取り払うことに成功した。
◇
シゲサトの視界に今日会う約束をしていた二人の姿が映る。
一人はやや褐色肌の少女、そしてもう一人は大人びた紳士的な男性(シゲサトフィルタ)であった。
一時間ほど早く到着したせいで、何とか落ち着きを取り戻した鼓動が再び激しくなるのを感じる。
あいさつ……挨拶をしなくては……!
「お久しぶり……ってほどでもないですかね……?」
シゲサトは何とかそれっぽい言葉を発する。
「お、お主、何だ、その攻撃的な格好は!?」
はぇええええええええ!!
再会を果たすと、開口一番に、サラは的確な攻撃を加える。
早朝の3時間及び移動時間の水合わせにより、ようやく健康な生活を送れる許容範囲の脈拍を取り戻したシゲサトの心拍数は再び急上昇する。
や、やっぱり変か!? やっぱり脚出し過ぎ!? こんなみっともないものを恥ずかしげもなく晒してしまい……なんかすみません!!
し、しかし、何か……何か言わないと……
「は、はい? あはは、ちょっとサラちゃんは何を言っているのかなー?」
な、何を言ってるのか、わからないのは自分だぁあ!
シゲサトはわけもわからずに”適当”に答えた回答であったが、幸い、ジサンにはサラの発言を”適当”にいなしたように映ったのであった。
そうだ……! ちゃんとした挨拶をしないと……!
そうして月並みの挨拶に辿り着く。
「こんにちは! オーナー……!」
「こんにちは……シゲサト……くん」
◇
「すごい……! すごいっ! バスが水の上を走っているっ!」
「ちょっ……!」
水上バスが走り出すとサラが
大人らしく呆れたような表情をしたジサンは、子供とはいえ女性の胸を直視してはいけないと紳士的に目を逸らす。(シゲサトフィルタ)
その拍子にシゲサトは自身と目が合ってしまったことに気が付く。
っっっ…………!
その瞬間、魔王:エデンにソロで挑み、対峙したその時よりも鼓動が高鳴るのを感じる。
やばい……! 何なんだ、これ! こんなんじゃなかったのに! 言っちゃったことで妙に意識しちゃって……!
と、とりあえず笑っとけ……!
「オーナー! た、楽しみですね!」
「は、はい」
ジサンはさして気に留める様子もなく、涼しい顔で返事をする。
それもそのはずだ。一方的に好いているのは自分だけなのだから。
こんな様子で今日、一日、持つのだろうか……
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