119.おじさん、孵卵

「……卵。これってモンスターの卵だよな?」


「恐らくは……」


 サラが応えてくれる。

 ジサンのテイマー歴は決して短くはないが、卵というものを見たのは初めてであった。


「モンスターって卵産めるのか?」


「理論上は可能よぉ。でも、普通は生殖行動はしないんですけどねぇ」


 今度はディクロが応えてくれる。


「ってことは、ピュア・ドラゴン……まさか……お前……」


 ジサンはピュア・ドラゴンをじっと見る。


「がぅがぅう……!」


 ピュア・ドラゴンは「まさか、違います!」とでも言いたげに、腕を左右に振る。


「そうか」


(……そう言えば、ピュア・ドラゴンって雄なのか、雌なのか……何となく雄っぽい扱いをしてきているが……)


「この卵の親は?」


「がぅがう……」


 ピュア・ドラゴンは首を横に振る。

 どうやらわからないようだ。


「そうか、教えてくれて有難う」


「がぅ……!」


 ピュア・ドラゴンはどこか嬉しそうにしている。


「しかし、うーむ……」


(親が何らかの理由で放置してしまったということか? まだ生きているのだろうか……? いずれにしても、このまま温めずに放置すれば死んでしまうのだろうか?)


「サラ、どうしたらいいか分かるか?」


「マスター、申し訳ありません。専門外です」


 サラは申し訳なさそうに眉を八の字にする。


(……答えられませんじゃないところを見ると、本当に知らないようだな。となると……)


 ジサンはメニューでメッセージを打ち始める。

 簡単な挨拶を打ち込み、本題に入る。


[ジサン:牧場内で親元不明の卵を発見したのだが、どうしたらいいだろうか?]


[ダガネル:卵! 超珍しいですね! それなら……]



 ◇



 孵卵ふらん機C:10万カネ、孵卵機B:100万カネ、孵卵機A:1000万カネ。

 孵卵機とは人工的に卵をかえらせるための機械で、温度、湿度等を保ち、適度に転卵てんらんする機能を具備した装置である。

 ランクが上がるごとに生まれる確率が十パーセント上昇するそうだ。


[ダガネル:モンスターの卵、めちゃくちゃ珍しい代物ですよ]

 →ジサンの揺らぐ気持ち:孵卵機C


[ダガネル:これを逃したら二度とお目に掛かれないかもしれませんね]

 →ジサンの揺らぐ気持ち:孵卵機B


[ダガネル:一体、どんな希少モンスターが生まれてくるんでしょうね?]

 →ジサンの揺らぐ気持ち:孵卵機B


[ダガネル:それはまぁいいとして、命ってお金に代えられないモノですよね?]

 →ジサンの揺るぎない気持ち:孵卵機A



 セールスマンのえげつないセールストークにより、ジサンは無事、孵卵機A……商品名”インキュベーター松”を購入する。



 ◇



 牧場入口付近に戻る。


「それでは、この卵は、私が責任を持って見守ります」


「頼む」


 卵はディクロに託すことにした。ディクロは普段、牧場入口付近にある人型モンスター用のログハウスで生活しており、卵もそこで見てもらうことにした。


「と言っても、私は本当に見守ることしかできませんが……」


「それで充分だ」


 実際に常にインキュベーター松孵卵機に入れておくことがベストであり、下手にそれ以外のことをしない方がいいだろう。


「すでに死んでいないといいのですが……」


「そ、そうだな……時々、様子を見に来る」


「有難うございます! では、こちらももし何か変化があればすぐにご連絡します」


「有難う」


 千万の出費は安くはなかったが、それでもジサンは悪い気分ではなかった。


 一体どんなモンスターが生まれてくるのか。また何かを一つ手に入れたジサンであった。



 ===========

【あとがき】


 宣伝です。


 今、イチオシの作品です。


 ハズレスキルすらない努力家凡人、見る人から見れば普通に非凡だった話

 https://kakuyomu.jp/works/16817330658501470726


 ダンジョンおじさんと同じく(?)、現代ファンタジーのハートフル(?)なお話です。

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