118.おじさん、案内される

ジサンは牧場から去る前に、入場口付近にある牧場内を一望できる丘に立つ。


(ん……?)


すると、一匹のドラゴンがバサバサと飛んでくるのが見える。


ドラゴンは徐々に近づき、そしてジサンの元へ飛来する。


「がぅ……」


それはピュア・ドラゴンであった。


「お、ピュア・ドラゴン、どうした?」


「がぅう……」


ピュア・ドラゴンはどこか自信なさげに……いや、それはいつものことであったが、ジサンに何かを伝えたそうにしている。


(……ん?)


「がうがぅ……」


「……マスター、ピュア・ドラゴンが何か言いたいみたいです」


サラが簡単に通訳してくれる。


「言ってみていいぞ」


「がぅう……がう」


「なっ! 無礼な! マスターに来て欲しいところがあるだと? マスターは忙しいのだ」


「がぅうう……」


ピュア・ドラゴンはサラのお叱りを受け、しゅんとしている。


(……言う程、忙しくないんだが……)


「いいぞ、ピュア・ドラゴン、案内してくれ」


「マスター!? なんて寛大な……」

「がぅう」


こうしてジサンとサラ……とディクロはピュア・ドラゴンの背中に乗る。


「ん……? なぜ貴様がいる?」


いつの間にか便乗するディクロに対し、サラが怪訝そうに問いかける。


「うふん、いいじゃない? 面白そうだし……いいですよね? 旦那さま」


ディクロはさも当然であるかのように微笑む。


「え、うん」


ジサンには特に断る理由はない。


「悪いが、淫魔王、このドラゴンは二人乗りなんだ」


「そんなことないわよね? ドラゴンさん?」


「がぅ……」


ピュア・ドラゴンは自信なさげにうなる。いつも自信なさげなので、どちらか分からない。


しかし、両翼をバサバサとはためかせ、次第に浮力を得る。どうやら大丈夫なようであった。


「行くのよ! ドラゴンさん」


ディクロが天を指差す。


「なぜ、貴様が仕切る」





ピュア・ドラゴンは牧場内、山岳エリアと森川エリアの境目付近までジサンらを運び、地上へと降り立つ。


「この辺に何かがあるのか?」


「がぅ……」


ピュア・ドラゴンはそう唸ると、ドシドシと歩き出す。


そして、しばらくすると足を止める。


「ここか?」


「がぅう」


そこは山岳エリア側にある洞窟であった。


ピュア・ドラゴンは洞窟内に侵入していく。ジサン、サラ、ディクロはそれに付いていく。


「きゃっ!」


(……!?)


ディクロが躓いたのか、ジサンの腕にしがみつく。


「ぬ、主! 何をっ!」


サラが敏感に反応する。


「私、こういう薄暗くて、ジメジメしたところ苦手なんですぅ」


「そ、そうか……」


「その頭についてる翼はいかにもこういう場所が好きそうだがな?」


と、サラが蝙蝠こうもりの翼について言及する。


「…………ちっ……」


「あ、貴様! 舌打ちしたな! 今、舌打ちしたな!」


「してないわよぉ? これはあれよ、キスよ!」


「きっ、キスぅう?」


大魔王さまと隠魔王さまがわぁわぁ騒いでいるのをピュア・ドラゴンは立ち止まり、振り返りながら困ったように見ている。


「行っていいぞ、ピュア・ドラゴン」


「が、がぅ……」


ジサンが声を掛けると、ピュア・ドラゴンは再び歩き出す。


洞窟は狭くはなく、それほど苦労することなく歩くことができた。

そして、しばらく歩くと開けた場所に出る。


「がぅがう」


そして、ピュア・ドラゴンが「あそこだよ」とでも言うように、太い腕を前に出す。


「お?」


「ん……? 何でしょうね? マスター」


「……卵だ」


そこには巣穴のような窪みにメロン大の卵が一つ、置いてあった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る