117.おじさん、初めての鍛冶

 ミストは身長170センチくらいの青年である。

 鍛冶師のため作業着を着ているが、明るめの髪に、やや西洋風の顔立ちをしており、かなりの好青年だ。

 彼は鍛冶師であると同時に、復讐者でもある。


 彼は、ついこの間までプレイヤー名:ミツミ、クラス:ブラックスミスであった。


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 ◆2043年1月

 魔王:マリキチ

 ┗討伐パーティ<哨戒商会>

  ┝ツビ 【死亡】 クラス:マネージャー

  ┝ミツミ     クラス:ブラックスミス

  ┝ズウホ【死亡】 クラス:盗賊王

  ┗ソナタ【死亡】 クラス:ジェネラル・ヒーラー

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 彼は魔王:マリキチを討伐した哨戒商会の唯一の生き残りだ。

 これが彼が復讐者である理由だ。


 故に彼はプレイヤーキルの手段を欲した。

 それが彼が特殊クラス:魔王となった理由だ。


 魔王になり、復讐者に生まれ変わるという覚悟でプレイヤー名を変更した。

 それが彼が今、ミツミではなく、ミストというプレイヤー名である理由だ。


 ジサンは知らなかったのだが、特定の魔具を使用することでプレイヤー名を変更できる。ただし、変更後も元の縛りである本名の一部を必ず付けるというルールは適用される。改名の魔具はそれなりにレアで手軽に入手できるというものではないらしい。


 一月前、やさぐれていた彼を紆余曲折ありつつも、再び槌を取らせたのであった。

 それが彼がジサンを”師匠”と崇める理由だ。


 ちなみに特殊クラス:魔王には、サブクラスというものがあるらしい。ミストのサブクラスはブラックスミス。敢えて表記するならばクラス:魔王【ブラックスミス】という具合になる。ブラックスミスは鍛冶師であると同時にハンマーで戦闘もこなすことができる。


 これによりサラにも、サブクラスがあることが発覚する。

 サラは何やら少々、恥ずかしがりながらもサブクラス:灰魔導があることをジサンに告白したのであった。同時にステータスや能力はサブクラスに依存することが大きいことも教えてくれた。


「師匠! 頼まれてた依頼、完了してますよ」


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 ■契りの剣TM

 AT+0


【効果】

 モンスターを”必ず”テイムできる。

 能力が低下する。

 テイムするためには戦闘の最初から最後まで装備している必要がある。


【付与】

 攻撃Lv2

 速度Lv3

 属性Lv2

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「我ながら相当な傑作ですよ!」


 ミストは爽やかに微笑み、剣をジサンに渡す。


「あ、ありがとう……」


 鍛冶師ができることは既存武器に対する付与エンチャントによる強化と素材を利用した新しい武器の生成クリエイトである。


 付与エンチャントは元の武器の特性を一切、変えずに武器に効果を付与して強化する。一方で生成クリエイトは新しい武器を生成する。


 ジサンがミストに依頼していたのは、テイム武器の契りの剣TMへの付与エンチャントであった。


「まぁ、師匠からもらった”珠玉槌”と”タピエカ鉱石”を始めとするレア素材達のおかげなんですけどね」


「それはよかったです」


 ”珠玉槌”とはエルフの森の機械兵工場で遭遇した魔王:メフィルジルの報酬であった魔装である。効果は”鍛冶スキル、特性の強化”だ。ミストによるとこの魔装は鍛冶スキル持ちならば喉から手が出る程欲しい代物であったそうだ。

 実はジサンが拡張施設として、鍛冶施設を選択したのもこのアイテムを有効活用できないかと……これまで一度も手を出してこなかった武器強化に挑戦してみようかと考えてのことであった。利用するには鍛冶スキルを持つプレイヤーが必要であることは後から知るのはいつものジサンである。


 素材のタピエカ鉱石についてもエルフの森の道端で拾った物である。鍛冶師の鑑定によると極めてレアな鉱石であり、素材としても非常に有用であるとのことであった。

 その他、サイカがファーマーになるまでの間、生産施設で生成していた”オークの牙”や”ドラゴンの鱗”といった素材もそれなりに優秀であるらしく、ジサンは素材生産についても再開しようかなと勘案するのであった。


 鍛冶施設自体はなくても鍛冶自体は可能であるらしいが、施設そのものに鍛冶スキルを強化する効果がある。珠玉槌と鍛冶施設の二重強化ダブルバフ。そして補助職でありながら、魔王討伐パーティに入るほどの実力を有するミストの元々の能力も相まって、彼は鍛冶師として、他と一線を画す存在になっていた。


 付与エンチャントについては元となる武器のレアリティにより付与できる効果のレベルが変わってくる。


 ジサンは契りの剣TMによりパーティに負荷を掛けている状況を鑑み、それを軽減できる手段はないかと考えた。その方法が付与エンチャントである。


 しかし、契りの剣TMのレアリティは極めて高く、並の鍛冶師ならば付与そのものが不可能であったのだ。故に並でない鍛冶師を探す必要があった。


「今度はぜひ生成クリエイトの方もさせてください」


「こちらこそ是非頼みたい。しかし……」


「はい! 今、ノーブライトを元にしたレシピを研究中です。これにはもう少し時間が必要そうなので、少々、お待ちください!」


「わかった。ありがとう。あとは……サラのブレスレットについても頼みたい」


「了解しています!」


 ミストは少し前、やさぐれていたのが嘘のように、はきはきと返事をする。


 ◇


 ジサンは鍛冶施設を離れ、ふらりと生産施設の近くを通る。


 茂木さんは……


「フックラ・オークとポッチャリ・オークを重ねてもただの肥えた豚になるだけ。時々、起きる突然変異は何でゴウワン・オークみたいな無駄に筋肉ばかりが成長した品種が生まれてしまうの? ボディビルじゃないんだから……チキンとミノタウロスについては凡庸の域を超えない……組合せようにも私のファーマーとしてのレベルに問題があるのかしら……せめて素体となる良質なミノタウロスがいれば…………ダメだ! ダメ! 全然ダメ! これじゃあ、小嶋くんに納得のいく食材を届けることができない! あぁああああ!!」


 そっとしておこう……



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