114.おじさん、絡まれる

「あなたは誰だ……?」


 ジサンはスライム覆面に問い掛ける。


「通りすがりのヒーローとでも言っておこうかな」


「はぁ……」


(何を言っているのかよくわからない……俺が馬鹿なのか?)


「不意打ちはヒーローがやることか?」


「なかなか鋭いことを言うね。そうだな……その質問に答えるにはまず正義の定義から考察する必要がある。過去のあらゆる英雄が指し示すように“正義”とは大概、後付けなのだよ。つまりは勝者が正義であるということ。この世界は哀しいまでに勝者こそが絶対的正義。勝たなければ意味がない。そこから導かれる回答は目的のためならやる時はやる……ということ。だが、正義を語る上では大義も欠くことはできない。そういう意味で君の指摘は結構、正論だったりするわけで……」


(……)


 ヒーローが何かを言っている間にジサンは何とか状況を整理する。


 えーと…………


“とりあえずこいつを何とかしなくちゃいけない。あとこいつはテイムできない”


 理由や過程をすっ飛ばし、ジサンはひとまず正しい解を導き出すことに成功する。

 ジサンはテイム武器から通常武器に切り替える。


「おっ、やる気になったみたいだね」


(……)


「さぁ、始めようか……!」


 その言葉と共に、自称ヒーローは一気にジサンとの間合いを詰める。

 剣と剣がぶつかり合う。金属音が辺りに響き渡る。


(はやいっ……!)


 その男はこれまでジサンが戦ってきたどんな相手よりも速かった。


「いい反応だ……これはどうだ? 魔法:アクセル」


(っ!?)


 ヒーローに赤色のアップエフェクトが発生する。そのエフェクトと共に、更に動きが加速する。


 ヒーローの右上からの振り降ろしをバックステップで回避する。

 流れた左方向から真横への薙ぎ払いを今度は剣でストップすると、ヒーローはテイクバックして、突き……はフェイントで右からの掬い上げ……


 ヒーローとジサンは凄まじい剣戟を繰り広げる。


 と、ヒーローはステップバックし、一度、ジサンとの距離を取る。


「想像以上だ……アングラ・ナイト……! だが、まだまだこれからだ……スキル:英覇断斬!」


 ヒーローは空を斬る。


「連打! 連打! 連打!!」


 そう叫びながら、何度も何度も空を斬り、その度にバイオレットの斬撃エフェクトが発生し、飛ぶ斬撃となってジサンを襲う。


(……おぉっ!)


 ジサンはその斬撃を懸命に払い退ける。


 そして跳ね返された斬撃のうちの一撃がヒーローの頬をかすめ、HPゲージが僅かに減少する。飛ぶ斬撃には跳ね返し判定があるようだ。


「おぉ……」


 ヒーローはその光景を見て、小さく感嘆する。


(この人、本当に強い……闇雲に戦うわけには……)


 ジサンがそう思い掛けた時、空間が割れるようなエフェクトが発生する。


(っ!?)


「……ん? まさか……ウルトマくんとパンマが?」


 ヒーローは口走るように言う。


(え……?)


 そして、サラがワープするようなエフェクトと共に出現する。


「ま、マスター! これは……!?」


 サラはマスターに褒めてもらえると上機嫌に出てきたのであったが、そういう雰囲気ではないことをすぐに察する。


「大丈夫だ。それより無事だったみたいでよかった」


「マスター……」


「うーん、邪魔が入っちゃったか……今日はこのくらいで……」


「何じゃ、この者は……」


「サラ、待て、今はシゲサトくんの安全が第一だ」


「…………はい」


「ふふ……今日は戦えてよかった。より一層、君のことが気に入ったよ……では、また会おう……」


(いや、もういいよ……)


 何なのかよくわからないが、面倒くさいなぁと思うジサンであった。



 ◇



「ちくしょうちくしょうちくしょうちくしょう……畜生が……!!」


「……もう許して……」


 顔面をボコボコに殴打されるウルトマが許しを請う。

 その隣ではズケの姿がうつ伏せで倒れ、ピクピクと痙攣している。


「お前はもういい……だが、この“パンマ”には死んでもらうか……」


「えっ? じょ、冗談ですよね?」


 ウルトマは脅えるように確認する。


「冗談だと思うか?」


「っ……!」


「おぉー、ヒロ、随分、荒れてるニャ?」


 猫耳姿の女の子が荒れる男に声を掛ける。


「……ネコマルか……」


「どうしたニャ?」


「……こいつらの無能さに嫌気がさしているだけだ」


「ふ~ん、そう……それで、収穫はあったかニャ?」


「ちっ……」


 ヒロは舌打ちする。


 彼が苛立つその理由は他にあった。

 それは先のアングラ・ナイトとの戦いについてだ。


 あの野郎……一度も、魔法もスキルも使いやがらなかった……!

 その上でたったの1もHPを減らすことができず、こちらは一撃を浴びた。


 自身が最強であると信じていた。それも圧倒的にだ。

 実際にそれは過大評価という程でもない。彼は隠れた極めて強力なプレイヤーであることは確かであった。


 そして彼は過去のアングラ・ナイトの戦績から、とある因果関係を閃く。


「……そうか。あいつ……“最強千”を使いやがったな……」



 ===========

【あとがき】

 使ってない……!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る