115.ドラグーンさん、告白2
「……お、オーナー?」
ビワコ近くの宿の一室にて、ベッドで眠っていたシゲサトは目を覚ます。
「おっ、大丈夫そうか?」
ジサンもそれに気づき、声を掛ける。
「あ……えーっと、俺……」
「ふん、マスターに感謝するんだな」
「サラちゃん…………はっ! グロウくんとアンちゃんは!?」
目覚めで頭が回っていなかったシゲサトは意識を失う直前の出来事を思い出す。
「大丈夫だ。ちゃんとサラが助けた」
「ほっ……本当ですか? よ、よかったです」
シゲサトは心底安心した顔を見せる。
「あ、あれ? 二人は……?」
「今はシゲサトに合わせる顔がないとかなんとか言って、去っていきおったわ」
グロウは去り際にサラとジサンに対し、謝罪と感謝を告げていったため、ジサンは根は悪い人じゃないんだろうなと思った。
そして、“ステルス・ストーカー”という魔具を寄越してきた。詫びと自身への自戒のためと半ば強引に渡してきた。その魔具により、フレンドであるシゲサトの場所を特定できたらしい。ジサンはフレンドが少ないのでこれをシゲサトにあげようと決意する。
そして最後に“俺は俺のやり方でシゲサトを諦めない”というよく分からないが、格好いい言葉を残していったことはシゲサトには黙っておくことにした。
「オーナー、サラちゃん、助けてくれて有難うございます。それと迷惑を掛けてしまって本当にごめんなさい……」
「とんでもない。皆、何事もなくてよかったです」
シゲサトはそれを聞き、ほっとしたような顔を見せる。
「…………そうだ……もう一つ、謝らなくちゃいけないこと、あるんだ……」
(……)
アンのSOSが来る直前、シゲサトは謝ることがあると言っていたのだ。
あの時言おうとしていたことが何なのか、ジサンも少し気になっていた。
「オーナー……ごめんなさい。俺、本当は仙女の釣竿……そんなに欲しくなかったんです」
(……)
「いや、欲しくなかったわけじゃないです。むしろとても欲しかったです。それは間違いありません。でも、その裏にはもっと違う目的があったんです。俺はそれを黙っていました」
シゲサトは眉を八の字にして、しょんぼりするように語る。
「オーナーは自分の欲しいアイテム以外の条件は見ない方ですか?」
「え……?」
「魔帝:ジイニ……その出現条件は、魔王:エスタがそうであったように、別の魔帝を倒すこと……だったんです。だから……ジイニを倒すために誰でもいいから魔帝の討伐が必要だったんです」
(魔帝:ジイニ……その報酬は“魔具:雌雄転換”。その効果は使用者の性転換……)
「でも俺は魔王:エデンにソロで挑んだ時、本当にギリギリで……死ぬかと思いました。だから、魔帝討伐を一人で成し遂げる自信がなかったし、実際にリバドと戦ってみて……きっと一人で勝つことはできなかったと感じました。だから……騙す様な形に……いや、騙していて本当にごめんなさい」
シゲサトは目をぎゅっと瞑り、深々と頭を下げる。
「…………知ってましたよ」
「え?」
ジサンの予想外の回答にシゲサトは目を丸くする。
「私も一応、他の魔帝の条件くらい見ていました。知っていたというのは正確ではないですね。そうなんじゃないかなと思っていたというのが正しいかもしれないです」
「……」
「えーと、なので……ジイニを倒したいシゲサトくんを利用していたのは私の方でした……ということで……」
「っ……!?」
それはシゲサトにとって、世界一優しい黒幕宣言であった。
シゲサトはまるで心臓を握られているかのような気分になり、シゲサトの彼に対する思いがまた更新されたことを実感する。
「えーと、それじゃあ、改めて……ジイニ、行きましょうか?」
「いえ、もう要らないんです」
「え?」
「俺はもうリバドを無理に倒さなくていいって言いましたよね? それってつまり、もうジイニを倒さなくてもいいって意味でもあったんです」
「ど、どうしてかな?」
てっきりシゲサトは名実共に男性になりたいのだろうとジサンは思っていたが……
「エルフの森での夜のこと、覚えていますか?」
「……はい」
「夜っ?」
黙って聴いていたサラが少々、反応する。
「よかったです。俺はオーナーに訊いたんです。男性と女性、どちらが好きかって……オーナーは答えてくれました。“女性”だって」
「……えぇ」
「オーナーが女性を好むなら、この女性の身体のままでいいって思ったんです。本質的には身体の性別なんてどっちだっていいって……!」
(え? それってどういう……)
「つまり……きっと、俺はオーナーのことが好きです」
シゲサトは真っ赤な顔で、眉を八の字にして、目を逸らすようにしながら……けれども、聞き間違う余地がない程に、はっきりと言う。
(……!)
それはジサンが人生で初めて直接告げられた本当の好意であった。
えっ……シゲサトくんって心は男だったんだよな? キノコを食べた時もサラの方に反応してたし、てっきり女性の方が恋愛対象なのだと思っていたが……
って、ことはあれか? 同性愛的なあれか? いや、一周回って、もはやノーマルになってる? えっ? えっ? えっ?
「あぁあああああああ! こやつ、言いおった!! 言いおったぞぉおお!」
「へ……?」
「こやつを一瞬でも友と思った我は愚かであった。主はあれだ! 友などではない……! 好て…………っ!」
き手……と言う手前でサラは思いとどまり、なぜか紅くなる。
あれ? それを宣言するのって、つまり間接的告白なんじゃ? 告白……告白!! それってつまり……ケッコン!?
「……はわわわ」
急に機能停止したサラはそっとしておいてジサンはシゲサトに訊く。
「え、えーと、それはつまり交際したいってこと……なんでしょうか?」
「え!? あ、はい。できれば……」
「……ごめんなさい……私はシゲサト君のことを男性として見ていたので……急には……」
「……!!」
シゲサトは一瞬、切なそうな顔を見せる。
だが……すぐに前向きな表情に変わる。
「いえ、それがきっと俺がオーナーに惹かれた理由ですから」
「……」
「有難うございます! でも”急には”ってことは可能性ありってことですよね?」
(え……? 年齢とか色々怪しいが大丈夫か……?)
「諦めないのって漢らしくないですかね……?」
「…………潔く諦めるだけが漢らしさじゃない……とは思います」
ジサンはすぐに諦めてばかり来た過去の自分が漢らしいとはとても思えなかった。
「……っ! やっぱりオーナーって格好いいです!」
(し、しまった!)
「なら、諦めませんよ? きっと捕まえてみせます!」
「っ……! 私はドラゴンじゃありませんよ?」
「いいんですよ! ドラゴンより興味深い
シゲサトはちょっぴり強がって、だけど、めいっぱい目を細めて微笑む。
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