105.おじさん、まだフィッシング
「ぐぅうう……すごい引きだ」
シゲサトは歯を食い縛るようにしながらしなる釣竿と格闘している。
「
シゲサトが使役していた浮遊するウナギことドラドがシゲサトの細身の身体に巻きつき、腕を補助する。
「ありがとう! ドラド! 頑張るぞぉ! うぉおおおお!」
「いいぞ、シゲサトくん、あと少しだ!」
「来る! 来るぅううう!」
シゲサトが仰け反ると巨大な魚体が水面から飛び出てきて、陸に……スチャと着地する。
「「え……」」
魚体……とは?
巨大であることは確かだ。体長にして、2メートル以上はありそうだ。だが、シゲサトが釣り上げたそれは魚というよりは熊であった。
まるでぬいぐるみのような熊だ。
熊は自分の口についた釣り針を器用に取ると、こちらに向き直り、そして告げる。
「どうぞ……続けてください」
「「……」」
◇
謎の熊に釣りを続けるよう促された三人および二匹は促されるままに釣りを続けていた。
ちなみに今回、ジサンが使役しているのはフェアリー・スライムである。
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■フェアリー・スライム ランクO+2
レベル:90
HP:1607 MP:523
AT:560 AG:849
魔法:エレメント、メガ・ヒール、フェアリー・ヒール
スキル:まとわりつく、硬化タックル、妖精の歌
特性:液状
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フェアリー・スライムはジサンの頭の上でふにゃりとしながらじっと水面を見つめている。
(しかし、あの熊は何なんだ……)
ふとジサンは近くに腰かけ、体育座りでジサン達の釣りを虚ろな瞳で眺めている熊をチラ見する。
モンスター名は表示されていない……ところを見ると、モンスターではない? だとすると、NPCだろうか……あるいは上級のモンスターということもなくはないか? 流石にプレイヤーってことはないと思うが……
そんなことを考えていると、再び、シゲサトの釣竿に当りが生じる。
「うわ! また重いぞ!」
「頑張れ! シゲサトくん!」
ジサンはシゲサトを鼓舞する。
「ぐぅうう! さっきより重い……かも」
すでにドラドが補助に入っているが、シゲサトは水面側にジリジリと引きずられている。
(ここは……)
「サラ、手伝ってあげてくれ!」
「はい! マスター!」
サラはマスターの指示とあらば、他人の補助にも嫌な顔はしない。
すかさずシゲサトの後ろに回り、補助しようとする。
「うわっ! サラちゃん! 当たる! 当たっちゃうよ!」
が、シゲサトは顔を少し赤く染め、焦りの表情を浮かべながら拒絶を示す。
「ん……? 何だ?」
(そ、そうか……! シゲサトくんは健全な男児、なんという初歩的なミスを……)
「サラ、すまん、替わってくれ!」
「はい! マスター!」
今度はジサンがサラの替わりにシゲサトの補助に入る。
ジサンは水側へ引き込まれないようにシゲサトの腰回りを支える。
「うわぁあ! お、オーナー……!」
(……!?)
シゲサトは先程のサラとさほど変わらない……むしろもっと紅潮させながら慌てふためく。
(なぜだ……? ど、どうすれば……)
「私が手伝いましょう」
(え?)
その時、後ろから先程まで様子を座って眺めていた森……いや、湖の熊さんが立ち上げり、スッとジサンと替わる。
「な、なんかよくわかないけど、まぁ、いいや」
なぜか素直に受け入れたシゲサトの身体は水面に引きずられることなく安定する。
「うぉおおおおおお!」
そして、そのまま力強く竿を引き上げる。
水面から魚体が飛び出てくる。
今度は間違いなく魚だ。
ひげの生えた寸胴な魚体には、モンスター名も表示されている。
それは間違いなくターゲットの……
(マナ・ナマズだ……!)
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