104.おじさん、フィッシング
「グロウ……また逃げられちゃったね……」
よく分からない伏兵少女の威圧により、塞いでいた道を空けてしまった男に対し、付帯する女性が声を掛ける。
「っ……! 全く……あいつはどうして分かってくれないんだ……」
大切に思っている。少なくとも、今、彼女と同行している奴らよりは……
あんな風にあしらわれて、三時間。それでも健気に湖に不審人物が近づかないように警護を続けているのが、その証拠であった。
その想いが通じないもどかしさに憤る。
「そうだね……私もその気持ちわかるよ……」
「っ……止めてくれよ……俺にもそれなりに罪あ……」
グロウが何かを言いかけた時、白い服の二人組がグロウとアンの横を通ろうとする。
「急げ!」
「わーかってるよー! でも、シゲサトがようやく来たって本当かねぇ」
「あぁ……確かな情報みたいだ。あの時の借りはしっかり返さないとな」
二人組はそんなことを話しながらグロウの目の前を通過した。
「ちょ、ちょっと待て!」
「あん?」
グロウに呼び止められ、二名は足を止める。
二人組は男女のペアである。
男性の方は、頭の中心部分だけ頭髪を残し、それ以外を刈込んだ特徴的な髪型をしており、サングラスを付けている。
もう一人は短髪で細目、ガッシリとした体型のジムで身体を仕上げていそうな40代くらいの女性であった。
「え? 女性の方って……」
グロウとアンは特に女性の方を見て、驚く。
「何か用か? 急いでいるんだが? ん? 赤……P・Owerか……? まずいな……」
「何がまずいのさ?」
ガッシリ女性は男性に聞き返す。
「何って今、お前が
P・Owerのズケがいる。
それがグロウ、アンが驚いた理由であった。
なぜなら魔王:ガハニの討伐に関わったアーク・ヒーラーのズケはすでに退場(ゲームオーバー)しているはずだからだ。
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◆2043年1月
魔王:ガハニ
┗討伐パーティ<P・Ower(K選抜)>
┝ワイプ【死亡】 クラス:剣豪
┝バウ 【死亡】 クラス:ガーディアン
┝ズケ 【死亡】 クラス:アーク・ヒーラー
┗シイソウ クラス:魔女
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着ているとは何だ?
なぜこんなところに亡くなったはずのズケがいるのか……?
グロウとアンの二人はその状況に底知れぬ不気味さを覚える。
「お前が着てるのはズケ。そんで目の前にいるのはP・Owerだろ? わかるか?」
「あのさー、わかってるよ、そんなの。で、だから、それの何がまずいのさ」
「……っ! それもそうだな……」
男性がハッとしたようにして、ズケの言葉に同意する。
そして、グロウとアンを視覚に入れるために首を捻る。
「っ……!」
理由は不明確であった。しかし、グロウは一歩、後ずさりする。
◇
時間は二時間ほど遡る。
「オーナー、マナ・ナマズ……釣れないですね……」
「うむ」
釣りを始めて、一時間ほどが経過していた。
ターゲットであるマナ・ナマズは未だ釣れていない。
しかし、その間にも、いろいろな新種の魚が釣れていたため、ジサンは結構、楽しんでいた。
リアル・ファンタジーにおける釣りは比較的、シンプルである。
選ぶのは竿と餌だけ。あとは水に釣竿を垂らすだけだ。
魚が来ると、浮きがちゃぷちゃぷと沈む。その沈みが大きい時に糸を引けばヒットだ。
その後は、糸が切れないように引き上げる必要がある。魚が強く引っ張るときはリールを巻かずに、力が抜けた時に、一気に引っ張る。
これが釣りの基本となる。
しかし、まぁ、別に最悪、釣れなくてもいいんだ。 ジサンはそんな風に思っていた。
ガチ釣り勢にそんなことを言えば、叱られてしまうかもしれないが、エンジョイ勢からすれば、それはいわば大自然ののんびり無限ガチャだ。 だから釣り糸を垂らしているだけで、すでに楽しいのだ。
アクアリウムで鑑賞可能であることも、おじさんの快楽を刺激する要素の一つである。
(とはいえ、せっかくだ……)
「そろそろ、これを使ってみるか」
「はい……?」
ジサンはかつてツキハから貰った“黄金の釣餌”を取り出す。
「シゲサトくんもどうぞ」
「……いいんですか?」
「もちろんです」
「あ、有難うございます」
「マスター……! 私も……!」
下手ながら、意外と楽しんでいるサラも釣餌をねだる。
「あぁ、いいぞ」
そうして三人は釣り糸を再び垂らす。
まもなくであった……
「ん……? んんん!?」
「し、シゲサトくん?」
「フィッ、フィイイッッシュ! でかい! でかいぞぉ!!」
「シゲサトくん! 焦らずじっくりだ」
「わ、わかりました!」
ちょっぴり元気のなかったシゲサトの竿が大物の当たりを予感させるしなりを示す。
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