100.おじさん、提供する
「ど、どうしようか……?」
シゲサトが困ったような顔で尋ねる。
「どうするって……そりゃあ破壊するに決まっているじゃろ? ワシらエルフはこやつらに相当、手を焼いているのじゃ」
「そ、そうだよね……」
シゲサトはステファの発言に同意するが、やや言葉を濁し、快諾というわけではなさそうだ。
「それでは頼む」
ステファはパネルを操作するジサンを見つめながら言う。
「ちょ、ちょっと待ってください……」
「ぬっ?」
ステファの要請にジサンはすぐに応じなかった。
ジサンは思う。確かに元々はエルフ達が機械兵に困っているという話であったのは間違いない。しかし……
(こんなにメタルタイプが美味しいポイントを破壊するの勿体ないなぁ……)
機械とは言え、破壊するのは可哀そうという気持ちも働いたのかもしれない。
「えーと、私に考えがあります」
◇
[プラントの全製造能力を破壊しますか?]
[いいえ]
[一度、選択すると変更できません。よろしいですか?]
[はい]
ジサンらは機械兵製造施設の破壊をしないことを選ぶ。
「……!」
すると、効果音と共にトレジャーボックスが出現する。
[慈悲深いプレイヤー様に感謝を]
(……)
[”エルフの森の通行券”を入手しました]
◇
「ここが森の西側の境界線じゃ」
「なるほど……」
未開の製兵所ダンジョンを攻略した後は、一度、エルフの集落に戻り、一泊した。
その日は感謝の宴が催され、ジサンは大層、もてなされたのであった。
そして、翌日、ステファは精鋭部隊のハーデというジサンらを最初に長老のところまで案内してくれたエルフを伴い、ジサンら未開の製兵所ダンジョンの少し先にあった森の境界まで連れて来てくれた。
「へぇ~、ここが境界……まだ森が続いているように見えますが、ここを越えると東側の森にループしてしまうということですよね?」
「そういうことじゃ。本来はここで森は終わり、平原となる。そしてさらにその先は別の亜人族の国がある」
「なるほどなるほど。亜人族の国かー。何だかちょっとワクワクしますね」
「そうか?」
「そうですよ! まぁ、その話はまた今度しましょう」
「そうじゃな……」
ステファは少し遠い目をしている。
「で、確認じゃが、製兵所で入手した”通行券”を使えば、君らは外に出られるかもしれない……ということじゃな」
「そうです。元のリアル・ファンタジーの世界に……」
「……にわかに信じられない話ではあるのじゃが、そういうことなのじゃろ」
昨晩の宴でステファには色々とジサン達の持つ情報を提供したのであった。
「それじゃあ、幾分、寂しくもあるが、ここで別れじゃな」
「……はい」
「其方らには本当に感謝している。見ず知らずの我々の調査に協力してくれた上に、
「いえいえ、お互い様です。それにほとんどの武具を提供してくれたのは俺じゃなくてオーナーですし……」
(……)
製兵所の破壊を迫られた際、ジサンはエルフに機械兵に対抗するための武具の提供を提案したのであった。
ジサンはカスカベ外郭地下ダンジョンで入手した使わない武具を大量に所持していたのだ。中にはエルフの得意とする弓、そしてお古のテイム武器、中級プレイヤーであれば喉から手が出る程欲しくなる高性能な装備も含まれる。
無駄な殺生はしたくない。機械兵とて命がある……というのは言い過ぎかもしれないが、意思あるものに魂が宿る。ステファとて、その価値観は同じであった。
そんなこともあり、防衛、あわよくばテイムによる共存を可能にする手段の提供にて手を打ったのである。
「捨てられずに余っていたものですので、逆にお礼の品などもいただいたので……」
「あのような上物を余らせていたとは、其方はどうやら本当の大物のようじゃな……なかなかに興味深い出会いであったぞ」
「偉そうに……」
サラが不満そうにポツリと呟く。
「っ! 其方もなかなか可愛かったぞ。特に機械王を倒した後の涙を溜めた姿は……それはもうキュンキュン……」
「えぇい! 止めい!」
「あははは」
シゲサトは二人のやり取りを見て、微笑ましそうに笑っている。
「……それでは、これで」
ジサンは少し呆れたように切り出す。
「さよならになるのかな? あれが上手くいくといいんだけど。でも、一旦はさよならだよね」
シゲサトの言葉にステファが応える。
「あぁ、もう会えぬこともあるかもしれない。そう思っておいた方が後悔はないじゃろう。長いとは言えないかもしれない時間であったが、中々に有意義であったぞ……さらばじゃ」
(……)
ジサンらはステファらに背中を向け、森の境界へ踏み出す。
そして、ジサンは思う。
(これだけ惜別しておいて、普通に向こう側の森にループしたら気まずいな……)
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