99.おじさん、寄り掛かる

「何なのじゃ、これは……!」


ガーディアンを攻略し、ワープ床で移動した先にあったモノを見て、ステファは驚きを口にする。


そこには見渡す限り機械兵を製造するための大掛かりな装置となっていた。

ジサンらが眺めているその時も、次々に機械兵が組み立てられ生み出されていた。


完成したと思われる機械兵はこちらに襲いかかってくることはなく、ワープ床に乗って、どこかへ転送されていく。


「ここは機械兵が造られる工場みたいですね。そう言えばダンジョン名も製兵所というくらいだし、そのままと言えばそのままか」


シゲサトが簡単な考察を述べる。


「こ、工場……? 奴らは自動で生み出されているということか? 命の生成となれば、まるで神の所業ではないか……何ということじゃ……」


ステファはこの世の不可思議に遭遇したかのように呟く。


「ははは、ちょっと大袈裟だね」


ステファの驚き様を見たシゲサトは苦笑い気味に反応した後、今度はちょっと考え込むように続ける。


「だけど、確かにちょっと不思議。どうしてわざわざこんなアナログなことをするのだろう……」


シゲサトがアナログなことと感じたのはモンスターを実際に製造していることを指した。

モンスターは具現現実技術、通称R2技術により生み出されるものであると考えられており、そうであるならば、わざわざ実際の工場で製造する必要性は感じられないからであった。


「宗派のようなものだ。いや、ものだろう……」


「え?」


シゲサトの疑問に、サラが一つの仮説を提唱する。だろうを付けたことで無理矢理、事実から仮説に変換したようだ。


「生身の肉体を崇拝しているということだ」


「生身の肉体……?」


「さっきシゲサトが言ったように機械兵は実際に製造されている。R2技術で生み出された空想の存在ではない。それが生身の肉体ということだ。例え、養殖のようなものであったとしてもな」


「さ、サラちゃん……!?」


サラの解説にシゲサトが妙に強く反応する。


「な、なんだ……!?」


「い、いや、初めて名前で呼んでくれたなって……いつもお主って呼ばれてたから……」


「っ……! ど、どうでもいいではないか、そんなこと!! では、またお主と呼べばよいか!?」


サラが赤くなる。


「ご、ごめん、是非、シゲサトで!」


横で幾ばくの微笑ましさを感じながら眺めていたジサンは、そう言えばサラも初めて名前を呼んだ時、喜んでいたなぁと二年近く前のことを回想する。


(そういう意味だと俺はまだサラに名前を呼ばれたことがない……)


と、微笑ましさから転じて、なぜか不思議な感情に苛(さいな)まれるジサンであった。


「話の腰を折ってごめん、続けて貰ってもいいかな?」


「……ぐぬぅ……つ、つまりはAIも一枚岩ではないということだ」


サラは唇を噛みしめるような仕草をしつつも続けてくれる。


「AIは概念的に一つの存在ではあるが、進化プログラムにより自発的に多様性を生み出している。その過程で、アンチR2技術的な思想が出現し、それがメタルタイプというやや異色な存在を生み出しているということだ」


「なるほど……面白い予想だね……でも、よくそんなこと考えられるね…………」


シゲサトが急に神妙な顔つきをする。


「サラちゃんってもしや……」


(……! 気づかれたか……?)


「もしかして……天才?」


「まぁな」


(……)


ジサンの一瞬の緊張は杞憂に終わったようであった。ジサンはしかし、気付かれたからといって何かが変わるものでもないか、とも感じた。


「うーむ、どうやらワシには前提知識が決定的に足りていないようじゃが、其方らの話から何となく現状の事態の背景が掴めてきたぞ」


ステファがそんなことを言う。


ジサンは難しい話に少し疲れてきた。


(お……、ちょうどいいところに棒が……)


その辺にちょうどあった一メートルくらいのポールに寄り掛かる。


[製兵プラントマスタパネル起動]


(……!?)


突如、音声と共に空想ディスプレイが投影され、そして問われる。


[プラントの全製造能力を破壊しますか?]



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【あとがき】

 [ぽちっとな↓]


『平リーマン、もらった地味スキルが範囲狭いけど絶対壊れない』

 https://kakuyomu.jp/works/16817330667603950541


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