95.長老さん、次鋒

「やはり……見れば見るほど不気味じゃ」


機械兵と対面したステファが呟く。


「鉄製の杖とは随分と邪道であるな」


「――」


ステファはキャスター・マシンの持つ杖に対して苦言を述べるが、機械兵は特段の反応を示さない。


「ふん……相手は人形か……ならば、情けは不要か」


そう言いながらステファは左腕を前に出す。


すると、どこからともなく弓が出現する。


エルフが得意とする典型的な武器だ。


他のエルフ達も使用していたし、シェルフのルィも愛用していた。

実際にここまで来る戦いにおいても長老はこの弓一張でもって機械兵に相対していた。


「人形とは随分な言い草ですが、さてさて……天然物のお手並み拝見ですね」


いつものようにジサンの隣にいるサラがそんなことを言う。


(……天然物?)


「いざ!」


その掛け声と共にステファは弓を引き、十メートル程離れた位置にいる鋼鉄に向け、矢を射る。


「っ!!」


「――」


矢は標的に直撃するも力なく跳ね返され、敵兵の装甲へ効果的な損傷を与えているようには見えない。

実際にHPゲージの減少も確認できない。


[魔法:メガ・スプラッシュ]


「先ほどから何なのじゃ……」


ステファは突如、出現するポップメッセージに未だ慣れていないようであった。


しかしそうであったとしてもメッセージングされた魔法は粛々と実行される。


キャスター・マシンの杖先から強烈な水柱が噴出され、ステファを強襲する。


「っ……!」


ステファは辛うじてその水柱を回避し、その術者を睨み付ける。


「杖を持つからして、もしやと思ったが、やはり魔法使いであったか……その見た目、その鎧をまとい魔法を操るとは、何と奇っ怪な……」


(そういえばファンタジー世界の魔法使いって何で布みたいなの着てるんだろうな……もっと重装備にすればいいのになぁ……)


と、元も子もないことを考えているジサンを横目にステファはキャスター・マシンの攻撃を受けないように素早く動きながら矢を射ていく。


弓の名手なのであろう。矢は全てターゲットに的中する。弱点を探るようにあらゆる部位に攻撃を加えていくが、芳しい成果は得られていない。


しかし、数を重ねることで僅かであるが、HPゲージの減少が確認できるようになってきた。


「……時間はかかるがこれで――」


[魔法:ヒール]


「えっ……」


この戦いにおいて初めて発生したポップアップメッセージと同時にキャスター・マシンの周囲に緑色のエフェクトが発生し、これまでのステファの苦労は無に帰す。

キャスター・マシンのHPは戦闘開始と同様の充填された状態となる。


「その見た目で回復魔法じゃと!? 水属性も似合ってはいなかったが……!」


ステファは不満そうに抗議するように言う。


「なんか、この魔法……ウォーター・キャットのキサさんにちょっと似てますね」


ジサンの横で静かに観戦していたシゲサトがぽつりと呟く。


「お? 確かに……そうかもですね」


ジサンは二度、シゲサトは一度、キサの戦闘を目撃しているが、クラス:ヒール・ウィザードのキサは回復魔法と水属性魔法を得意としていた。


(……言われてみるとさっきのランサー・マシンもユウタさんのクラス:長槍兵っぽかったかもな……)


などと思うジサンであった。


(……ってか、それより長老さん、大丈夫かな……)


「ステファさーん、大丈夫ー!? 頑張れー!」


シゲサトが無邪気に応援している。


「……侮るなかれ」


「!?」


「色々と……少々、プライドが傷つくが、そうも言っておられぬか……」


ステファが静かにそう呟くと、彼女の周りにジリジリとした青白い光が漂い始める。


「魔法:雷纏(らいてん)」


ステファの魔法の宣言とほぼ同時に機械兵も大技の水魔法を放つ。


不規則に発生した魔法陣がステファを取り囲み、それぞれから中心地を目指すように水撃が発射される。


「――……!」


しかし、その中心にいるはずのターゲットは既にそこにはいなかった。


「鋼鉄のゴーレムは雷(いかずち)に弱いものじゃが果たして其方はどうであるかな……」


いつの間にかキャスター・マシンの背後に回っていたステファが囁くように言う。


「くらってみるか? 紫電の矢を……」


「――!」


機械兵はいつまで経っても応えを返すことはできないだろうが、仮に応えられたとしてもその猶予を与えないほどの間を持って、雷矢の雨が降り始める。


「――――」


その矢、一本の与ダメージが仮に1/100であったとしてもキャスター・マシンのHPゲージはまるで一撃の大技を受けたかのように小気味よく減少していく。





「ちょっとやりすぎたかの?」


正に鉄屑となった元機械兵を前に長老様がほくそ笑む。



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