91.おじさん、キノコを貰う

「ほれ」


(……?)


「ほれ……!」


「はい……?」


 ジサンが気が付くとステファが何かを差し出していた。


「な、何ですか? これ……」


「見てわからぬか? キノコじゃ」


 確かにそれは傘のようなフォルムの植物であり、小ぶりではあるもののキノコそのものであった。


(い、いや、それは確かに見れば分かりますが……)


「なんじゃ? いらぬのか? 好物であるというから、珍しいものを見つけたのじゃが……」


(そういえばそういうことになっていたな……いるかいらないかで言えば、正直、いらないのだが……)


 少し前のジサンであれば断っていただろう。

 しかし、彼も多少は人の気持ちが分かるようになってきた。


「…………いただきます」


 ジサンは仕方なく差し出されたキノコを受け取ろうとする。


「マスター! 待ってください……!」


「ん……?」


 サラがジサンのキノコ受理を阻止し、キノコを奪う。


「主……」


 サラがステファを見つめる。


「な、なんじゃ……」


「そのキノコ……毒キノコじゃなかろうな?」


「な!? そんなわけないじゃろ」


 ステファは憤慨する。


「動揺している……ますます怪しい」


「動揺などしておらん!」


「サラちゃん、流石にそれは濡れ衣じゃ……」


 シゲサトがサラをたしなめようとする。が……


「善人は黙っとれ!」


「ぜ、善人!?」


「まぁいい、ならば我が食べることにしよう……」


 サラはそんなことを言いながら強奪したキノコを口に運ぼうとする。


「あっ! それは! 待つのじゃ!」


「ふん、心配するな! 我に毒など効かぬ」


 そう言ってサラはキノコにかぶりつこうとする。


「あ、安易に食すのは!」


 ステファがサラにしがみつくように食べるのを阻止しようとする。


「な、何をする!? あ……!」


 滑るようにサラの手から離れたキノコは宙を舞い、美しい放物線を描く。


 そして、なぜかシゲサトの口の中にダイレクトインし、そのまま胃袋にインサートされる。


「「「「…………」」」」


「ごほっごほっ……!」


「し、シゲサトくん! 大丈夫か!?」


 ステファを疑っていたわけではないが、サラがあんなことを言っていたせいで、ジサンはシゲサトを心配し、声を掛ける。


「す、すまん……! そんなつもりではなかったのだ」

「ヴォルぅ……」


 サラも不可抗力であったのか、珍しく自身のマスター以外に謝罪を口にする。

 ヴォルちゃんは心配そうにしている。


「ごほ……だ、大丈夫……だよ……」


「た、食べてしまったか……」


 ステファは青める。


「ま、まさか本当に毒キノコ!?」


 ジサンは珍しく声を荒げて確認する。


「そ、そんなわけないじゃろ! だ、だが……」


「だが……?」


「このコリダケには、強力な強化バフ効果があってじゃな……」


「強力なバフ……?」


「あぁ……その効果はずばり子孫繁栄じゃ……」


(え……? それはやばいのでは……? というか、この人は俺に何を食わせようとしてたんだ……)


「し、シゲサトくん……体の具合はどうだ?」


 ジサンは結果的に身代わりとなってしまったシゲサトの身を案じる。


「オーナー、ご心配有難うございます……ですが、特段の変化はありません」


「そうか……なら、よかった……」


「あ、あれ……でも何だろ……ちょっと…………」


「……?」


「ギィイイイイ!!」


(!?)


 シゲサトが何かを言いかけた時、奇妙な機械音が辺りに響き渡る。


「奴らだ……!」


 ステファが急に緊張感のある声で伝える。


(来たか……!)


 振り返ると森の奥から銀色のメタリックな構造体、頭部には赤く光る単眼モノアイを揺らめかせた1メートルほどの大きさの機械兵が数体現れる。


 表示名はアサシン・マシン。


(……名称が表示されている。間違いなくメタルタイプのモンスターだ)


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