90.おじさん、拾う
「グギャっ!」
最後の牙浪森狼がエフェクトと共に消滅する。
今度はラグは発生しない。
「オーナー、お疲れ様です!」
シゲサトが簡単に
「……っ」
ステファは旅の者達の想像以上の実力に単純に驚いていた。
エルフの精鋭達が苦戦していた謎の新興魔物である狼を旅の三名は全くと言っていいほど寄せ付けなかったからである。
「其方ら……やりおるな……」
「この程度でやりおると言われてもな……言っておるだろ? 我らは魔王を凌駕する実力を有すると……」
サラが不敵な笑みを浮かべながら生意気に言う。
「っ……魔王を……まさか本当に……?」
ステファは幾分、悔しさを滲ませるような神妙な顔付きを見せる。
(だけど、確かに、そこら辺のダンジョンに比べるとかなり高ランクだな……)
テイムに成功した牙浪森狼はランクMであった。
参考としてナイーヴ・ドラゴンはランクNである。つまりナイーヴ・ドラゴンのワンランク下に相当する。
カスカベ外郭地下ダンジョンが基準となっているジサン、サラにとっては難敵とは言えないかもしれないが大多数のプレイヤーにとってはそうではないだろう。
「シゲサトくん、そういえばさっきのライキリ・トカゲのランクは何だったのかな?」
「え? 何だったかな、ちょっと確認してみます」
そう言うとシゲサトはディスプレイで確認する。
「あ、えーと、ランクGですね」
「有り難う、ちなみに牙浪森狼はランクMでした」
「え? 結構、差がありますね」
「そうですね」
シゲサトが少なからず驚きを示したのは、それが一般的なダンジョンではあまりない現象であったからだ。通常は似たランク帯のモンスターが配置される傾向にあるからだ。
ただし、何事にも例外は存在する。
その一つがカスカベ外郭地下ダンジョンである。
「魔王に匹敵するかどうかはさておき、其方らの実力が確かであることは分かった。だが、油断は禁物じゃ、この先には例の魔物がいる」
「機械兵ですね!」
「お、おぅ……そいつじゃ」
通常より急にウキウキ気味に食いついてきたおじさんにステファは少したじろぎつつも続ける。
「其方らを危険に晒してしまい、申し訳ないが調査にご協力頼む」
「いえ、高そうな料理をいただきましたので」
一応、それも本心ではある。
◇
「サラちゃん」
「なんだ?」
エルフの集落の西の森を進んで行く道すがら、シゲサトが前を歩くサラに声を掛けるがサラは首だけ捻って対応する。
「あ、いや、何でもないよ」
サラの釣れない対応にシゲサトは悪いと思ったのか口を
「な、なんだ……気になるではないか」
自分で塩対応しておいて、いざ何でもないと言われると気になってしまうサラであった。
「い、いや……大したことじゃないんだけど、背中に虫が付いてるよ」
「えっ!? 虫? どこ!?」
サラは意外にも動揺して虫を引き剥がそうとクネクネと動いている。
「あ、取れた」
「な、なんだこの虫は……!」
「うーん、見た目はゾウムシにちょっと似てるけど」
「虫けらの種類などどうでもいいのだが……!」
(ゾウムシ……? ……しかし、あの不遜なサラが動揺することもあるんだなぁ)
と、ジサンはシゲサトとサラのやり取りを横目に見る……と。
「お……」
ジサンは道端で綺麗な鉱物を発見する。
(……何だこれ、高く売れる奴か?)
ジサンはその鉱物に手を伸ばす。
「どうした、旅の者……キノコでも見つけたか?」
おじさんの不審な物拾いに気づいたステファが声掛けをする。
「あ、いや、鉱物(こうぶつ)を発見したので」
「そうか、キノコが好物(こうぶつ)であったか……」
「え? あ、はい……」
(……もうそれでいいや)
「だが、有毒の物もある。つまみ食いはやめておいた方がよいぞ」
「き、気をつけます」
親切心を振りまき満足げなステファにジサンは困りつつも返事をすると、今度は、ステファがジサンが手に持っていた鉱物に気がつく。
「ん? どうしたのじゃ、そんな石ころを持って」
「石ころ? あ、いや、綺麗だったのでつい」
「……? そうか。そんな石ならそこら辺にいくらでも落ちておるぞ」
「え……?」
そう言われて辺りを見渡すと確かに綺麗な鉱物が点々と落ちていた。
(あまり珍しい物ではないのかな……)
などと考えているうちに鉱物が消滅する。
つまり、アイテム化されたようである。
[タピエカ鉱石 を入手した]
(一応、れっきとしたアイテムではあるんだな……)
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