89.おじさん、ラグる
「よぉし! ドラゴンっぽいから俺がテイムしちゃいますよ!」
(お、一応、ドラゴン判定なんだな)
リザードもどうやらシゲサトの中ではドラゴンに含まれるようであった。
ゲーム上でドラゴンに含まれるかどうかは別の話であるが……
モンスター名が表示されていないことに気付いていないシゲサトはその大砲でもってライキリ・トカゲを一気に攻め立てる。
「グギャっ!」
弾丸を浴びたライキリ・トカゲは小さく呻き声をあげる。
「おぉ……」
シゲサトのアクションに対し、長老は目を丸くし、小さく感嘆する。
エルフにとってライキリ・トカゲは森の難敵であったのだ。それを瞬く間に処理した謎の人族に対し、驚きを覚えるのは当然であった。
「って、あれ……よく見るとHPゲージがないような……」
シゲサトが動きを止めたライキリ・トカゲを見て、差異にようやく気付く。
(……)
ジサンも奇妙に思う。
この程度のモンスターであれば100%テイム武器でなくとも、上位のテイム武器であればほぼ確実にテイムに成功するであろう。
普段であればすぐにテイム成功のエフェクトが発生するのだが、そうならない。
仮にテイムに失敗したとしても戦闘勝利による小さなファンファーレが流れるのである。
「見事だ」
長老がシゲサトに賛辞を送っている。
「あ、どうもです……でも、おかしいな~~、テイムにならな……」
(……!)
シゲサトがテイムにならないと言い掛けた時、ライキリ・トカゲの周囲にリング状のエフェクトが発生し、ライキリ・トカゲがその場から消滅する。
そして聞きなれた簡単なファンファーレも流れる。
それは見慣れたテイム成功のエフェクトである。
「あ、やっぱりちゃんとテイム成功できましたね!」
シゲサトが空間ディスプレイのパネルを操作し、確認しながら言う。
(ラグ? ……若干、ロードが遅れているのだろうか)
ジサンは遅延を疑う。リアル・ファンタジーではこれまであまり目にしたことのない現象であった。
それでもある意味、元通りとなったことで幾分、ほっとする。
と、今度は意外な人物が不可解な表情を見せる。
「のぉ……ライキリ・トカゲの死体は一体どこに……? それに……なにか変な音が頭の中を流れたのだが……」
◇
「な、なんじゃこれは……」
長老はシゲサトに教えてもらい出現させた空間ディスプレイを弄りながら神妙な顔付きをする。
「ワシのレベルが表示され、それぞれの力が数値化されている……? 使える魔法も列挙されている? このクラスというのは何だ……?」
長老はステータスメニューを確認しているのか、ディスプレイを眺めながら、まるでゲームを初めてプレイするかのような疑問を口にする。
(……プレイヤー……なのか?)
一方でジサンも不思議に思っていた。エルフ達はNPCであると思っていたのだが、実際にはプレイヤーの扱いになっていたことにだ。
そして、なんとなく同じようにメニューを確認していたジサンはあることに気が付く。
(ん? ……ステファ?)
「あれ? もしかして長老ってステファさんって言うんですか? 可愛いですね」
ほぼ同時にシゲサトも同じことに気付いたのか、口に出して、本人に確認する。
「な、なぜそれを!?」
「なぜかパーティメンバーに追加されてますよー」
「!?」
ステファは顔を幾分、赤く染めながら驚きの表情を浮かべる。
しかし、その通りであった。今まで誰も気づかなかったのだが、ステファの名がしっかりとパーティメンバーに表示されていたのだ。
だが、通常、行う必要があるパーティ登録をした覚えがなかったため、シゲサトが”なぜか”と付け加えたのであった。
「その程度で動揺するとはエルフの長老も大したことないのぉ~~、ス・テ・ファちゃん」
サラがニヤリとステファに言う。
「っ~~~! ど、動揺などしておらん!」
「そうかの? 先程からお口がずっと開いておるぞ?」
「っ! ふふ……小娘のくせに、このワシを煽るとはなかなか良い度胸をしておる。頼もしいことじゃ」
今度はステファが不敵な笑みを浮かべる。
「度胸……? 確かに我は器に十分な余剰があるからのぉ」
サラは小さくはない自身の胸部を強調するように胸を張る。
「ふふ、品格とは無限の器……魂に宿るもの」
ステファは大きくはない自身の胸部に
「「…………」」
(……)
何を言っているのかよく分からない二人の娘はお互いに自身の勝利を疑わない満足げな顔をしている。
見た目年齢が同じくらい、偉そうな口調も少し似ている……もうすぐ二歳と年齢不詳のご長老は仲が良さそうだ。
「お二人、気を付けて!」
シゲサトが短く警告する。
「!?」
二人が仲良くしている間に、別のモンスターが現れていた。
狼のような姿をした数匹のモンスターがジサンらを取り囲む。
(牙浪森狼……)
モンスターにはしっかりとモンスター名が表示されている。
それは森林ダンジョンにはよく出現する
「出たな……」
ステファが呟くように言う。
(……?)
「気を付けるのじゃ、旅の者……奴はこれまで森に存在しなかった強力な魔物じゃ」
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