88.おじさん、新境地へ
「全く……我を待たせるとは生意気な奴だ……」
エルフの集落で一夜を明かした三人はその晩、泊った客人用と思われる施設のロビーにて人を待つ。
「あっ! サラちゃん、一歳のくせに生意気だぞ!」
「ぬっ……? 年功序列などという馬鹿馬鹿しい文化は滅べばいい」
「一理あるかもしれないけどさ、先人を敬うのも大切だと思うよ」
(……そう言えば、長老は何歳くらいなのだろうか)
ジサンはふと疑問に思う。
エルフと言えば、ファンタジー世界では長寿の設定が定番である。その中でも長老ということはそれなりの御年である可能性が高い。
(……)
そんなことを思いながらもジサンはふとシゲサトの方を見てしまう。
(昨晩のあの質問は何だったのだろうか……)
男性と女性、どちらが好きかという斬新かつ原始的な問いにジサンは戸惑いつつも正直に応えたのであった。
その応えに、「なるほど……」と一瞬だけ思い詰めたような表情を見せたシゲサトであったが、すぐに軽く笑顔を見せて、普段通りになった。その後、少しだけ雑談をしてから、二人はベッドに入った。
「人の器は年齢ではなく実力で量るべきなのだ」
「それはサラちゃんが実力があるから言えるんじゃないかなー」
「そこそこじゃが、実力のある主に言われても説得力に欠ける」
「えっ……? えーと……」
(……)
今でこそ、そこそこの実力を持ってはいると自覚はあるが、ゲーム化前まではそれこそ底辺であったジサンは軽傷を負いながらも、二人の会話を何気なく聞いていた。
「お待たせした」
(お……?)
幼さを残しつつも透き通った第三者の声がロビーに響く。
三人は声のする方に向き直る。
そこには長老がいた。
昨日はドレスのような衣装を着ていたが、今日は動きやすそうな服装に変わっている。
そしてなぜか目に付く、大きめのリュックサックを背負っている。
(……)
昨日とは雰囲気がかなり異なっている。
女性の些細な変化になど絶対に気付けないタイプの男、ジサンであってもその理由はすぐにわかった。
長老はその蒼にも近いブロンドの長髪を背負ったリュックサックの中に収納していたのである。
「旅の皆さま、改めまして、ご協力有難うございます」
そう言って、長老はぺこりと頭を下げる。
「いいってことです! こちらも絶賛迷子中ですし」
シゲサトはジサンのように特段、機械兵に興味があるわけでもないのに聖人である。
「そう仰っていただけると助かる……それでは、西の森に案内致しましょう」
「了解です!」
◇
「こちらじゃ」
「はい」
三人は長老に案内され、西の森を進んでいく。
シゲサトはヴォルケイノ・ドラゴンを使役していた。
ジサンも使役しようとしたのだが、どうやら長老がメンバー判定されているらしく、五名の上限を超えているのか使役することができなかった。
(……ここまでは変わったところはないな)
肝心の森はこれまでの森ダンジョンの光景と特段の違いはなかった。
「ご注意を……! 魔物じゃ」
と、長老が簡単に警告を出す。
(お……?)
前方の茂みから体長三メートル程度の大型のトカゲのようなモンスターが現れる。
「あれはライキリ・トカゲ……電撃を扱う凶暴なリザードじゃ!」
「了解です! ちゃっちゃとやっつけちゃいましょう!」
シゲサトが返答し、それに同調するようにジサンも戦闘態勢に入る。
(…………あれ?)
ジサンがふとリザードはシゲサトくんの中でドラゴン判定ではないのだろうかと考えている時に、ライキリ・トカゲについて不可解な点があることに気が付く。
(……モンスター名が表示されていない?)
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