83.おじさん、止まる

「止まりなさい」


「へ……?」


 ドラドについての会話をしていたところへの唐突な第三者の制止命令に、シゲサトが素っ頓狂な声をあげる。


「何だ……?」


 ジサンは辺りを見渡す。


 いつの間にか数名に取り囲まれていた。


 取り囲んでいた者達は木の上から弓を構え、矢先をジサンらに向けている。


「な、何だろう……」


 シゲサトは動揺している。ジサンも焦燥がないかと言えば嘘になる。

 二人は咄嗟に無抵抗を示すように両手をあげる。

 ドラドは黙ってシゲサトに寄り添っている。


 一方でサラは呑気にあくびをしている。

 このパーティの中で自身の相対的な力量を正確に把握しているのは彼女だけであった。


「お前達は何者だ? 見たところ人族に見えるが……いや、そちらの娘は魔族か? 魔物も使役している……?」


 取り囲った者達の一人、金髪の女性が神妙な顔付きで質問を投げかける。


(……?)


 ジサンは質問の意図を理解できなかった。


 取り囲う者達は緑の布製と思われる衣装を身に纏い、弓を持っている。その姿はリアル・ファンタジーの世界にどっぷり浸かっている、あるいはゲームを構成する要素そのものであると感じられたからだ。


 故に、何者だと問われることに少々、違和感を覚えたのだ。


 そして、よく見ると彼女らは耳が尖っている。その姿はファンタジー世界の定番。ある種族を連想させる。


 エルフだ。


 あと一点、目から入る情報で、確認できることがあるとすれば、名称が表示されていない。このことから一般的なモンスターではないことがわかる。

 名称が表示されないのは人間、NPC、またはGMに近しいモンスターのいずれかである。

 もっとも有力なのはNPCだろうか。


「あのー、どういう意味でしょうか。俺らは普通に人間ですけど……角装飾なんて珍しくもないと思いますけど。こっちは使役モンスターだよ」


 シゲサトはサラの角や少し尖った耳は装飾品だと思っている。


「……? 人族ということだな。しかし、趣味の悪い装飾だ……」


「ん~~?」


 サラはニコリとしているが少しムッとする。


 エルフっぽい人達はエルフっぽい人達で腑に落ちない様子である。


「そう言うそちらはどちら様でしょうか? 何となく見たことがある佇まいではあるのですが……」


 シゲサトがジサンが今一番聞いて欲しいことを聞いてくれる。


「ご存知ないのか? ここは”エルフの森”。本来、人族の無断での出入りは禁止されているはずだが……?」


「エルフ!?」


「!? その反応を見るにやはり知らないのか?」


「いやいや、知ってますとも!」


(……ファンタジーRPGの定番中の定番だしな。そういえばあいつ元気かな……)


 ジサンはふとエルフとシルフのハーフとかいう設定の娘のことを思い出す。


「知ってましたが、こんなところにいるとは存じませんでした……」


「……左様ですか……知らなかったでは済まされない。それが法というものです。本来であれば極刑に処すところなのですが、こちらも少々、緊急事態でして……」


 自称エルフは真顔でそんなことを言う。


(いやいや、これくらいで極刑に処されちゃたまったものじゃない)


 ジサンが世の理不尽さを心中で嘆いていると、エルフはまた気になることを告げる。


「探索の末、ようやく見つけた”部外者”があなた達……ということです」


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