84.おじさん、長老と会う
「ハーデ、怪しくはあるが、今はそうも言っていられない」
(……)
ジサンらと会話をしていた者と別のエルフが口を挟む。
「そうですね……ご無礼をお許しください。伺いたいことがいくつかあります。どうか私達の集落へご同行いただけないでしょうか?」
「まぁ、俺達もちょうど困ってたところだったし、いいですよね?」
ジサンはコクリと頷く。
◇
「おー、なんか雰囲気あっていいですねー」
シゲサトが上空を見上げながらそんなことを言う。
「た、確かにそうですね」
連行されてやってきたエルフの集落は巨木の中腹に木版を敷き詰めて、空中に居住空間を実現していた。
空中”都市”と呼ぶには少々、大袈裟であるかもしれないが、それでも高所恐怖症でもない限り、男というものは本能的に高いところに惹かれる生き物なのかもしれない。
ジサンとシゲサトは少なくはないワクワク感を抱きつつ、樹上へのゴンドラに乗車する。
「わぁ~~! なんかビル建設の足場みたいで面白いですねー」
(……)
サラのよろしくない例えにジサン、シゲサトの浮かれ気分は少々、減衰する。
(だから、なんでサラがそれを知ってるんだ? ゲーム開始以降、そんな原始的な工事はされていないだろ……)
「これから”長老”の元へ案内致します」
ジサンがサラの持つ知識に感心半分、呆れていると、ハーデなる名のエルフがそんなことを言う。
◇
「よくぞ参った旅の者……」
集落の中心部。ジサンらは案内された一際大きな建物の一室で待っていた一人のエルフと対面する。
そのエルフはへたり込む様に座っている。
彼女の持つ透き通るようなブロンドの髪は金というより蒼にも近く感じられた。長く伸びた髪は床にペタリと付き、さながら絨毯の模様のようになっている。
(……彼女が長老か?)
状況的にそうであるのだが、外見からは判断が難しい。
見た目の年齢は10代に見えるからだ。
ただ、なんとなく威厳のあるオーラを放っている。
「長老、この方々が森で発見した人族です」
ハーデが答えを教えてくれる。
やはり長老のようであった。
「うむ……ご足労すまない。少しばかり
長老はジサンらを見つめながら淡々とややゆっくりとした口調で言う。
見つめられた目はなんとなく眠たそうな……瞼を半分閉じたような半眼で、擬態語で表すならば、ジトッとした目つきである。
「俺達にわかることであれば、何なりと……ただ、俺達も絶賛迷子中でして……」
「そうか……まぁ、良い。迷い人であろうと、ようやく見つけた外の人間であることに変わりはない……主らは我らのことをよくは知らない。それは合っているか?」
「はい……ファンタジーの世界ではよく知っていますが」
「ファンタジー……? まぁ、よい……」
長老はやや腑に落ちないような表情をしつつも話を進める。
「我々、エルフ族はこの森の集落で細々と暮らしていた。いや、今もこうして暮らしているわけではあるが、半年ほど前から奇妙な変化が起きた」
(……半年ほど前というと夏頃。ちょうど仕様変更でNPCが実装された頃か……? その少し後にルィに遭遇したんだったかな)
自称、エルフとシルフのハーフ、北の大地ホッカイドウで出会ったルィは、ぼったくり価格でゲームの情報を提供してくれるNPCであった。
「その変化とは具体的に何でしょうか?」
「まず一つ目だ……この森の外に出られなくなった」
「!?」
「それまではこの森の外には穏やかな平原が広がっており、人族や亜人族の国境とも接していたのだ。だが、変化が起きてからというもの森の境界に到達すると反対側の森へとループしてしまうようになってしまった」
「マジですか……これはちょっと俺達もまずくないですか?」
シゲサトが同意を求めるようにジサンの方を見る。
「確かに……」
それは即ち、ジサンらもこの森を脱出できない可能性があったからだ。
「そちらも状況は似ているのかもしれないな……」
長老は少しトーンを落とす。
「そちらからの情報提供の前に、まずはこちらの説明を最後までさせていただこう。森の外に出られない以外のもう一つの変化……それは見慣れぬ強力な魔物の発生である」
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