82.おじさん、迷い込む

「お、オーナー……」


「へ……?」


 バスの中で爆睡していたジサンは通路を跨いで反対側の席に座っていたシゲサトによって目を覚ます。


(えーと……)


 確か、バスに乗るのを阻止してきたグロウは結局、折れてはくれなかったのだが、どうでもいいことに痺れを切らしたサラが何かをしたらしく、気づいたら、無事、バスに乗り込めていたんだよな……とジサンは目覚める前の記憶を呼び起こす。


「ま、マスター……! らめれすそんなのぉ……!」


「!?」


 唐突な身に覚えのないイヤヨにジサンはびくっと肩を揺らす。


「マスター……むにゃむにゃ」


「……」


 ジサンの隣、窓側の席ではサラが未だ眠っている。


 気付けばバスは停車している。


「申し訳ない、寝てた。着いたのかな?」


「あ、いえ……実は俺もオーナーが気持ちよさそうに眠っているのを見ているうちに寝ちゃってまして……」


「そうでしたか、お恥ずかしいところを見せてしまいましたね」


「いや、そんなことないです……! あ、えーと、見つめてたとかそういうのじゃないですよ!」


 シゲサトは両手を前に出し、ぶんぶん振って否定する。


(……? そりゃそうだろ)


「あ、でも……えーと、ちょっと妙でして……」


 シゲサトが周りを見渡しながら言う。


「ん……?」


 ジサンもシゲサトに倣い、周りを見渡す。


 そして確かに少し妙だなと思う。


 ジサン達以外に乗客はいない。元々、バスに運転手はいないのでその点は不思議ではないのだが、バスの扉は解放されており、外はまるで森……いや、ダンジョンのようであった。


 センダイからシガへ向かう道すがら、ジサンらを乗せたバスは謎の”未開の森”に迷い込んでいた。



 ◇



「うーん、マップ位置、表示されませんね……何でだろう」


 メニューをいじりながらシゲサトが言う。


 三人はバスから降り、とりあえず辺りを散策し始めた。


 見た目は森風のダンジョンのそれであったが、シゲサトの言う通り、マップが表示されていないのが不気味であった。


「ふわぁ~~」


 サラは未だ眠そうに目を擦っている。再起動まで多少時間が掛かりそうだ。


「何かのゲーム的なイベントに巻き込まれてしまったのかもですね」


「そうですね。となるとイベントのクリア条件を満たすのが重要かと……」


(……)


 シゲサトの考察に対し、ドラドが返答する。


あるじ、まずは情報収集です」


 ドラグーンのサイズ縮小によりウナギサイズになったドラドが空中をニョロニョロと浮遊しながら言う。


「そうだね!」


 シゲサトが爽やかに返答する。


 当然、ジサンは困惑する。自身の抱いていたドラドに対するイメージと目の前のドラドの雰囲気に大きな乖離があったからだ。


 ジサンは意を決して確認することにする。


「えーと……彼は……邪龍ドラドですよね?」


「失礼な……! 我は”賢”龍ドラドであるぞ!」


(え……?)


「こらっ! 俺の尊敬する人にそんな言葉遣いはなしだ!」


「申し訳ありません……! あるじ……!」


 シゲサトの苦言にドラドはウネウネと謝罪する。


「……ど、どういうこと?」


「うーん、俺にもよくわからないのですけど……テイムしてからこんな感じなんですよ。モンスター名は邪龍ドラドから変わってはいないのだけど……」


あるじ……! 畏れながら申し上げます。我のことは賢龍とお呼びください……!」


「ご、ごめんよ! ドラドって呼ぶから、それでいいでしょ?」


「有り難き幸せ……」


「まぁ、よくわかんないですが、俺的にはこっちの方がいいから、結果的によかったですよ!」


「そ、そうなんだ……よかったね……」


(……)


 屈託のない笑顔を見せるシゲサトを見ながらジサンは少々、邪推する。


 これはまさか……


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