81.おじさん、止まらない

「お前を守るために来た」


「う、うん……それはさっき聞いたよ……」


「…………」


 グロウは聞き間違いの可能性を考慮し、もう一度、言ったのだろうが、流石に聞き間違いではないことを認識したのか渋い顔をしている。


「シゲサト……これからビワコへ向かうのだろう?」


「うん、まぁ、そうだけど……」


「先ほど、お前を守ると言ったが、つまりはビワコへ行くのを阻止しに来た」


 グロウは抽象的な表現により思いを十分に伝えられなかったと判断したのか具体的な手段の提示により訴えかける手法に切り替えたようだ。


「できれば好きにさせて欲しいのだけど……」


 だが、シゲサトにはあまり響いていないようだ。


「どうしてわかってくれないんだ?」


「え、えーと……」


 シゲサトは困り顔を見せる。


(……)


 傍から見ても全く理解できないなぁとジサンは首をかしげる。


「ちなみに何でビワコへ行くのを阻止するのかな……?」


 なるほど、それが分からないから意味が分からないのだなとジサンは頷く。


「なぜって、シゲサト……お前、自分が狙われているのが分かっていないのか?」


「ん……?」


「とんでもなく鈍感な奴だ……お前……魔王を倒しただろ? 最近になって魔王を倒した奴らがどうなっているかは流石に知っているだろ?」


「うん、まぁ……」


「実際にイナワシロコで謎の二人組に狙われたんだろ?」


「っ……!? 詳しいんだね……」


「自治部隊に入っていればそんな情報も入って来るさ……」


 グロウはいくらか得意顔だ。


「……ヒロさんが共有したのかな……まぁ、善意なんだろうけど……」


 シゲサトは少し顔を曇らせる。


「ちなみにどうやって俺達がここにいるってわかったのかな?」


「フレンドの居場所が感知できる魔具がある」


「そ、そうなんだ……」


「本題に戻るが、ビワコに行くのは止めろ」


「……っ!」


 グロウはやや強い口調で言う。


「イナワシロコで狙われたということは、お前がビワコに行くということは間違いなく予期されている。以前より更に強い刺客に狙われるかもしれない」


「……そ、そうかもしれないけど」


「シゲサトが狙っているのは仙女の釣竿だろ? お前にとっては欲しい物なのかもしれないが、無くてはならない道具ではないはずだ……それよりもお前の命の方がよっぽど大切だ……!」


「……っ!」


 シゲサトは口籠る。


(…………)


 独りよがりな論理にも思えたが、今のジサンには彼の言い分も多少なりとも理解できた。


「いい加減に目を覚ませ! モンスターはリポップするが、お前の命は一度きりだ……!」


「ちょっ! そ、それは聞き捨てならないよ……!」


 シゲサトは抵抗を示す。


「まぁ、いいよ! グロウくんがいくら止めたって俺は行くから!」


「そうか……ならば力尽くで止めるしかないな」


 グロウはそう言うと、ゆっくりと武器を取り出す。


「えっ……?」


 シゲサトはそこまでされるとは思っていなかったのか動揺していた。


「止めておけ……」


「「っ!?」」


 二人の間にジサンが割り込む。


「邪魔をするならまずは貴方から……!」


 グロウはそんなことを言うが、ジサンは短く返答する。


「……無駄だ」


 それにしてもこのおじさん、普段より妙に強気である。


「グロウ……ここはダンジョンじゃない。プレイヤー同士の攻撃ができないわ」


「……!」


 黙っていたアンが口を出す。


 ジサンが強気なのもそれが原因であった。


「っ……」


 グロウは武器を納める。


「それじゃあ、悪いけど行くから」


「ま……!」


 グロウは去ろうとするシゲサトを引き止めようとするが、先程の位置から特段、動いていなかったジサンが立ち塞がる形となる。


「何ですか、おじさん。退いてください!」


「あまり心配せずとも大丈夫ですよ」


「何だと?」


「シゲサトくんは"強い漢"です。誰かに守られるような玉じゃない」


「「!?」」


 邪龍の件でジサンの中で、シゲサトに対する尊敬リスペクトが上昇していた。


 そんなジサンの口から自然と出たその言葉は"効果抜群"であった。


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