77.おじさん、驚く

「み、ミズカさんが男に変身した……?」

「……?」


 シゲサトがわかりやすく驚きを言葉にする。

 サラも不思議そうな顔をしている。


「え……? 何ですか、あれ……」


 ジサンも思わず疑問を口にする。

 それは事情を知っていそうなユウタへの問い掛けも含んでいた。

 幸い、ユウタはそれを察し、回答してくれる。


「ミテイの兄貴です」


(いや、わからないです……)


「実は……とあるバグでミズカはあの男……ミテイさんと共存関係になっているんです」


 ユウタはやれやれといった表情で説明を続ける。


「人類初の魔王討伐戦、第四魔王:アンディマとの戦いで月丸隊の一員として参加し、不運にも死亡ゲームオーバーしたミテイさんは、人類初のコンテニューを適用されたのです。しかし、その際、バグでミズカの中に入れられてしまったのです」


「あ……はい……そうだったのですね」


(何だそのバグ……俺のバグよりやばいな……)


「ず、随分と納得が早いですね」


「そ、そうですかね」


 このゲームは無茶苦茶なことが平然とある。

 ジサンは既にそのことに慣れつつあった。


「ちなみにミテイさんのクラスは”トライアル”。と同時に、俺の知る限り……最強のプレイヤーです」


「なんと……!」


 トライアルとは全プレイヤーが最初に与えられるクラスである。ジサンは初日にしてトライアルから剣士のクラスに変えてしまった。


 しかし、ミテイは一度もクラスチェンジをしなかったのであった。


 クラスチェンジは無暗にしない方が良いというのが、掲示板開始以降の通説であったが、その極致がミテイであった。


 ジサン同様、ある意味、狂気と言える行動がこのゲームにおける”強さ”を生み出していた。




「え? この鼻血はなぜかって?」


 ミテイが独り言のように言う。

 中にいるというミズカに語りかけているようだ。


「血液を制御した。本来、凝結するはずだった位置から精神力でもって無理矢理それを閉じ込めた。無理をすれば当然、負荷がかかり、何らかの代償を払わなければならない……」


 ミテイはどこか誇らしげに精悍な表情で言い放つ。


(…………いや、かっこよく言っているが割としょうもないぞ)


 その通りである。


 しかし、しょうもないことを言いながらもミテイは迫りくる邪手を剣で何気なく防いでいる。


『忌々しい……!! 我が桃源郷に異物を持ち込みおって……!』


 邪龍は歯軋りする。


「その気持ちはわからんでもないが……」


 ミテイは剣を持つ手とは反対側の腕で鼻を拭いながら邪龍に同意を示す。


 が、情けをかけるつもりはないようであった。


「魔具:アップ・ハーブ」


 ミテイの周囲に能力上昇エフェクトが発生する。


 次の瞬間には、ミテイはその場から離れ、邪龍に向かっていく。


 無数の邪手が彼を襲うが、最低限の動きで避けながら、その距離を詰め、着実に攻撃を加えていく。


 そして元々、多くはなかった邪龍のHPは残り僅かとなる。


「シゲサト……! 決めてやれ!」


 ミテイはシゲサトをいきなり呼び捨てする。

 ミテイは中から状況を見ていたのか、しっかりととどめをシゲサトに譲る。


「あ、はい……!」


 シゲサトは状況を呑み込めておらず、戸惑いながらも本来の目的を忘れてはいない。


『おのれぇええ!!』


 性……聖戦に泥を塗られた怒りからか、邪龍は最後の足掻きを見せ、凄まじい量の邪手がまるで防護壁のように発生する。


「いけぇええええ! スキル:撃滅貫通砲!!」


 シゲサトの砲台からはレーザーのように残像を残す弾丸が放たれる。


 その反動はシゲサトを数メートル後退させる程である。


 激しく揺らめくレーザーの閃光は邪手の防壁をまるで豆腐のように容易く貫通し、邪龍の雄々しい胴体へと到達する。


『グギャアアアィグゥウウゥゥ……――』


 邪龍は激しく咆哮し、次第に果てるように静かになる。


 そして、シゲサトのメニューに歓喜のポップアップが発生する。


[邪龍ドラドが仲間になりたそうだ]


[テイムしますか?]


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