76.おじさん、見守る
巨大な黒く逞しい龍が四名の前に
「よーし、行くよー!」
ミズカが開幕一番、早速、突撃しようとする。
「ちょっと待って」
「!?」
「水着……防御力0なのは忘れないように」
勇み足しそうになるミズカをキサが止める。
「そうだったね! 魔法:オル・ガード」
「魔法:メガ・ダンプ」
ミズカがパーティ全体への防御強化魔法、キサが邪龍に対して攻撃力弱体化魔法をそれぞれ放つ。
パーティメンバーと邪龍に対してそれぞれ上昇流と下降流のリング状のエフェクトが発生する。
「有難うございます!」
「一応、感謝する」
シゲサト、サラがお礼を言う。
「とんでもない! さ~て、今度こそ」
準備が整うと、ミズカは剣を構え、邪龍に突進する。
「スキル:雪華一閃」
素早い動きで一瞬にして邪龍との間を詰めたミズカは駆け抜けるように一太刀を邪龍に浴びせる。
一筋の斬撃エフェクトが発生した後、その切り口から美しい真っ白な花が一輪、咲く。
そう思った直後、その花を中心に派手な氷結エフェクトが乱発生する。
邪龍のHPは明らかに減少する。
(流石、速いな……)
しかし、魔女と公表されていたが、すでにクラスチェンジしたのだろうか? とその戦闘スタイルに面食らう傍観者ジサンであった。
『グギャァアア!』
邪龍はカウンターのようにその黒い鱗を拡散するかのように打ち返す。
「っっ!」
ミズカは素早く、そして最低限の動きでその多くの回避に成功するが、僅かに被弾してしまう。
「うわっ……!」
その僅かな被弾により、ミズカのHPは半分近くまで減少する。
「魔法:メガ・ヒール」
すぐにキサが治癒魔法をかけることで、ミズカのHPは再び満タンとなる。
とはいえ、魔法、スキルには使用までのインターバルがあり、同じ魔法やスキルは連続では使用できない。
ヒーラーがいるからといって、無暗にHPを減らすことはできない。
「いくらバフ、デバフをかけても元が防御力0じゃ、こんなにダメージ受けちゃうか……」
ミズカが呟くように言う。
「ミズカさん、下がって!」
「!?」
「スキル:龍雷砲……!!」
シゲサトのボウカンの銃口が蒼い光を放ち、強い発射音と共に稲妻のエフェクトを纏った弾丸が複数発、邪龍に向けて放たれる。
「魔法:ギガ・スプラッシュ」
続いて、先程、ヒーラーとしての役割を果たしたキサが魔法を宣言する。
邪龍の周囲十八方向から不規則に発生した魔法陣から直径二メートルほどの水柱が噴出する。
「ふん……我が手を貸すまでもないかもな……」
などと言いながら、サラは掌を邪龍に向ける。
無数の黒い光弾が邪龍を目掛け、出発する。
『グギャァアアアア!!』
邪龍は三名の集中砲火を浴び、悶絶し、苦悶の表情を浮かべる。
どこか嬉しそうなのは気のせいだよな? とジサンは思う。
「へぇー、サラちゃんもやりますねー」
「あ、はい、そうですね……彼女はああ見えて、とても強いです」
「ほぇ~~、でもサラちゃんの攻撃……何だか弾幕タイプのボスのそれみたいですね」
「!? そ、そうですね」
(まぁ、大魔王だしなぁ……)
リアル・ファンタジーにはしばしば弾幕タイプの敵がいる。
弾幕タイプとは光弾と呼ばれるエネルギー弾などを撒き散らして攻撃してくるモンスターだ。
ボスともなると弾幕と呼ぶに相応しい量の光弾を撒き散らし、その光景は美しさすらある。
もっとも受ける側はその美しさを感じている余裕はないのだが。
◇
三名の遠距離タイプの攻撃により、邪龍のHPはあっという間に減少し、すでに残り1/4以下になっている。
集中砲火により分かりにくいが、とりわけサラの攻撃によるダメージがえげつなかった。
『よくぞ我をここまで追い詰めた……』
邪龍がそのような台詞を吐くが短時間のことで追い詰めた印象はあまりなかった。
しかし、こういった台詞は戦闘の終盤に攻撃パターンが変わる合図でもある。
「来る……!」
キサが警告すると同時に、邪龍から蛇のようにウネウネとした無数の黒光りした邪手が生えてくる。
「えっ、やば……!」
三名が遠距離タイプであったことで、唯一の近接タイプであったミズカに狙いが集まる。
「うわっ!」
「ミズカ!!」
ミズカが邪手に捕縛されてしまう。
邪手は不規則な動きでミズカを締め上げようとする。
「~~! やめてよぉ……~~!」
宙に浮かされてしまったミズカは脚をバタバタさせながら抵抗する。
「今、助けるよ! スキル:速射砲!!」
シゲサトが素早く反応し、銃撃する。
そして正確無比にミズカを束縛する邪手に弾丸を命中させていく。
「ひゅ~~! やるな~~」
ジサンの隣でユウタがシゲサトを称賛している。
ジサンもシゲサトの美しく正確な銃撃を心地よく感じ、ずっと見ていたくなるような感覚に陥る。
「大丈夫ですか? ミズカさん!」
「あ、ありがとう……! シゲサトさん……って、あ……!」
シゲサトの銃撃により引き裂かれた邪手は、邪龍の執念なのか、本体から引き裂かれてもなおクネクネと動き続け、ついにミズカのトップスの紐の一部を切断することに成功したのである。
だが、流石はトッププレイヤーのミズカである。
驚異的な反応速度で腕を巧みに使い、他者の網膜へ到達する前に胸部の先端部を隠すことに成功し、通報案件を阻止する。
「邪悪なドラゴンさんだなぁ……! あー、もう! でもこのままじゃ最後まで戦えないよぉ! 仕方ない! こうなったら!」
「おっ? まさかミズカの奴、見せるのか……!?」
(ん……?)
ジサンの隣でユウタが興奮気味に言う。
「魔法:チェンジ!!」
その魔法を宣言した瞬間、ミズカは発生した謎の暗黒空間に吸い込まれるように消えていく。
代わりにその暗黒空間から頭を掻きながら一人の人物が出現する。
「……全く……ミズカめ……こんな時に出しやがって……」
その人物は男性用の水着。
鍛えられた引き締まった身体。
やや中性的で端整な顔立ちをしており、鼻からは血液が流れ出ていた。
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