75.おじさん、讃える

「うわ……めちゃかわ……」


 どこかへ去り、再び現れたシゲサトを一目見たユウタがそう呟く。


「……」


 シゲサトはやはり恥ずかしいのか少し俯いている。


 シゲサトは短パンタイプのボトムスを履き、胸部には割と厳重にさらしを巻いていた。


(う……こうしてみるとやはり元は女性なのだな……)


 シゲサトの体のラインは男性にはない曲線美を描いていた。


(しかし自己を犠牲にしてまでのドラゴンに掛ける思い……果たして自分にそれができるだろうか……? シゲサトくん、何という漢なんだ……)


「シゲサトくん、君はかっこいいよ! 男の中の男だ」


「え……!?」


 シゲサトは虚を突かれたように目を丸くする。


(あ……変なことを言ってしまっただろうか……)


「あ、有難うございます」


 シゲサトは、はにかみ笑いを見せる。



 ◇



 シゲサト、サラは一時的にウォーター・キャットに加入し、ユウタは一旦、パーティから離脱する。


 魔帝条件を達成したいウォーター・キャットと邪龍をテイムしたいシゲサトのニーズを満たすにはこの方法が最善であるという結論に至った。


 サラは「マスター! 一時も離れたくありません!」などと抵抗したが、シゲサトの覚悟を無駄にしたくなかったジサンはサラに頼み込み、なんとか納得させた。


 その際、サラを納得させるため、この私がこんな下級ダンジョンごときでサラの助けが必要だとでも? という気障きざったらしいことを言ってしまい、ジサンは幾分恥ずかしい気持ちになっていた。


「でも、俺、抜けちゃって、ちゃんと魔帝条件満たせるのかな?」


「まぁ、ダメならその時、また考えようよ!」


「そうだな!」


 ウォーター・キャットの皆さんは基本的にポジティブであった。


「それじゃあ、そろそろ行こうか……!」


 ミズカが明るい声で号令をかける。



 ◇



「行っちゃいましたね」


「そうですね」


 龍へと挑むため天空へと向かう四名を眺めながら、地上にて待機する男二名。


「さて……問題はシゲサトさんが条件を満たしているのかどうか……」


(え……?)


「俺の見積もりによるとシゲサトさんの格好の身体に占める布の表面積の割合は30%かなりぎりぎりです」


 ユウタは真剣な顔で呟く。


「そ、そうなんですか……」


(……なんとか満たしてくれるといいのだが……)



 ◇



「これ、跨るって具体的にどうすればいいんだろう……」


 ウォーター・スライダーのてっぺん付近に到達したミズカは素朴な疑問を呟く。


「主はまだ男に跨ったことがないのか?」


「なっ!? ないよ! そんなの! ないからね!」


 ミズカは顔を赤くして否定する。

 なぜか若干、自分に言い聞かせるように言う。


「そ、そういうサラちゃんはあるの?」


「へっ? わ、我は従者ゆえ、身を委ねるのみで跨るなどという不遜な行為は……」


 思わぬカウンターにサラはあわあわしている。


「……」


 などという会話を横目にキサが黙々とスライダーに腰かける。


「あっ! キサ!」


「とりあえず滑る」


 そう言い残しキサは落下していく。


「ま、いっか、とりあえずキサに倣えだ!」

「あっ! 待て!」


 ミズカとサラもそれに続く。


「よしっ! 俺も……!」


 そして最後にシゲサトが滑り始める。


 こうして、四人が滑降状態に入った。


 だが、四人が滑り始めてもすぐに変化は起きない。


 いつの間にかスライダーの終着点付近に及ぶ。


 ダメなのか……? 皆がそう思い始めた頃。


 スライダーの水圧で各人の水着類が本人達が気付かない程度であるが、めくれ上がり、身体に占める布の表面積の割合が僅かに減少する。


 そしてその時は来る。


『一人変なのが混じっているが……うーん、ギリギリセーフじゃ』


 ダンジョン内に響き渡るような低い声が確かに聞こえた。


 そしてウォーター・スライダーは巨大な龍へと姿を変えていく。


「やった! 出た!」


 巨大なドラゴンは圧倒的威圧感を持って、四名に向き直る。


『我は邪龍ドラド……我に挑むかわゆ……ゴホン……勇敢なる者は汝らか……?』


「え……? 嘘……」


 ミズカは困惑と驚きの表情を見せる。


 だが、それはミズカだけであった。


 サラはこれくらいのことではいちいち動じない。


 キサは基本的にあまり表情が変わらない。


 そして……


「喋るドラゴンだぁあああああ!!」


『え……?』


 シゲサトの予想外に煌めく瞳によこしまドラゴンさんは幾分、たじたじとする。


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