72.おじさん、気づく

「シャチのお姉ちゃんだ、また会ったね」


「シャチは友を呼ぶ」


 サラもその人物、ウォーター・キャットのヒール・ウィザードのキサをしっかりと覚えていたようだ。


「うぉおおおおおおお!!」


 ざぶんという音がする。少し遅れて長槍兵のユウタもウォーター・スライダーから降りてくる。


「ん? どうした?」


 水から顔を出したユウタはメンバーの二人が別の人達と対面していることに気が付く。


「って、あれ!? もしかしてウォーター・キャットの皆さまでは!?」


 最初に反応したのはシゲサトであった。


「あ、はい……そうですが……」


 聞かれたミズカはそれを認めつつも、なぜかウェットスーツを着込んでいるシゲサトに少々、戸惑っている。


「あ、この格好についてはあまりお気になさらず……」


 シゲサトは急に気まずそうにし始める。


「ミズカ、この人、シゲサトさんでは?」


 キサがぽつりと言う。


「え!? あの魔王:エデン、ソロ討伐の?」


「そう」


「あ、えーと……えへへ……」


 シゲサトはYESの代わりに苦笑いしてみせる。


 ジサンはウェットスーツ姿かつ初対面でよく判別できるなぁと内心でキサに感心する。


「あ、初めまして……ウォーター・キャットのミズカです」


「あ、わざわざご丁寧に……こちらこそ初めまして、シゲサトと言います」


「初めまして、ウォーター・キャットのユウタです。一人で魔王を討伐するなんてすごいですね」


 基本的には常識人である者達は急にかしこまって挨拶を始める。


「えっ!? ってことは、もしかしてこの方が……ジサンさん!?」


「っ!?」


 急にミズカがジサンの方に向き直し、比較的、大きな声でそんなことを言う。


「え、あ、はい……」


「やっぱり……! まさかもう会っていたなんて……!」


(……??)


 ジサンは急に自分の名前を呼ばれた上、ミズカのテンションが上がったことに戸惑う。


 ジサンが戸惑っていたのを察したのか、ミズカが補足してくれる。


「あ、ごめんなさい……急に大きな声を出してしまって。実はですね、月丸隊のツキハさんから少し情報を貰っていて……すごい人がいるって……」


「なんと……」


 ツキハが自分のことをすごいと第三者に対して評価していることを聞き、ジサンは少し嬉しく思う。


「あの、ほら……えーと、恩を売るわけではないですが、以前、ボスを倒した時に匿名にする件、あれって実は私達がしたんですよ?」


(……! そう言えばそうであった)


「その節はお世話になりました」


「いえいえ、それはいいんですけど、少し前にツキハさんと電話で話をした時に、今はシゲサトさんと行動してるって伺ったんですよ。えーと、確か……見た目はダンディ……と……」


(……ダンディとは?)


 ミズカはジサンをチラッと見ながら、その情報には多少、偽りがあると感じたのか語尾が弱くなる。


「へぇー、この人がジサンさんか、ちょっと想像とは違ったけど」


 ユウタがそんなことを言う。


(……?)


 ジサンは思う。想像と違うとはどういうことだ?


 ミズカはともかく、ユウタは自分のことを認識しているはずだ。


(………………!)


 そこでジサンの脳に無駄に電撃が走る。


(ひょ、ひょっとして…………月丸隊のユウタさんとウォーター・キャットのユウタさんは別人!?)


 こうしてジサンはようやく掲示板の書き込みを嘘と見抜くことに成功したのであった。


「ところでウォーター・キャットさんのターゲットってもしかして……」


 ジサンが一人で自身の洞察力が意外と高いなぁと能天気に自画自賛していると、シゲサトが問題になりうる議題を提示する。


「あ、はい。邪龍ドラドを狙ってます」


 ミズカは素直に答えてくれる。


 それは即ち競合を意味する。


(邪龍ドラドはユニーク・シンボル……どうするんだ、これ……)


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